血糖値が慢性的に高くなり血管が傷つき、様々な合併症を引き起こす糖尿病。透析治療に至る原因疾患の1位も糖尿病です。現在、男性で19.7%、女性10.8%もの人が糖尿病と推定されています(厚生労働省の国民健康・栄養調査 2019年)。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では『糖尿病体質』そのものを改善していきます。漢方薬を使い体内の水分バランスやホルモンバランスを調整し、内臓の機能を調え、血管壁の柔軟性を保持し、自然治癒力を高めていきます」と話します。
「3年前から糖尿病と診断され食事療法と経口血糖降下薬の服用を続けています。しかしHbA1c(ヘモグロビンA1c *1)が7.2%前後を推移しており、それ以上は下がってくれません」

Aさんは自覚症状はほとんどありませんが、体調がよくないときに口の中が強烈に渇くことや、寝汗をかくことがあります。頻尿ぎみです。舌は紅く乾燥し、舌苔はほとんど付着していません。
糖尿病は、糖質の代謝異常により、血液中のブドウ糖の濃度、つまり血糖値が慢性的に高くなる病気です。血糖上昇や糖尿病の発症には、膵臓で産生され、血糖値を下げるホルモンであるインスリン(インシュリン)がうまく働かないことが関係しています。
糖尿病は、インスリンがほとんど出なくなる1型糖尿病と、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)に大きく分けられます。患者数の多くを占めているのは2型糖尿病で、インスリンの分泌量がじゅうぶんでないタイプ(インスリン分泌不全)と、インスリンは分泌されているが効きにくいタイプ(インスリン抵抗性)とがあります。2型糖尿病の場合、血糖値は何年もかけてゆっくり上昇し、多くの場合、40歳以降に糖尿病を発症します。
初めのうちは自覚症状がまったくないことが多いのですが、次第に、疲れやすい、だるい、肌がかさかさ乾燥して痒い、手足の感覚が鈍くなる、感染症によくかかる、皮膚の傷が治りにくい、目がかすむ、性機能の減退(ED)などの症状がみられるようになります。高血糖の状態が持続すると、のどや口が渇いて水分を多く飲む、尿の回数が増える、体重が減少する、などの症状が表れます。
さらに高血糖の状態が長期にわたって持続すると、血管壁の変性や血管腔の狭窄が起こります。つまり血管の壁が硬くなり、血管の中が狭くなります(動脈硬化)。動脈硬化になると、心疾患や脳卒中になるリスクが高まります。
糖尿病はじわじわと血管を硬くし、血液の通り道を狭くしていくので、放っておくとさまざまな合併症を引き起こします。おもな合併症には、先の心筋梗塞や脳梗塞のほかに、腎臓障害(糖尿病腎症)、網膜症(糖尿病網膜症)などがあります。神経障害を伴うことが多く(糖尿病神経障害)、足のしびれや痛みや感覚異常、立ちくらみや寝汗、動作の緩慢なども引き起こされます。こむら返りも起こしやすくなります。
西洋医学的には、食事制限(食事療法)、適度な運動の励行(運動療法)を基本とし、必要に応じて、経口血糖降下薬やインスリン注射薬が処方されます。
糖尿病と関係が深いのは、陰虚
漢方では、「糖尿病体質」そのものを改善することにより、糖尿病の治療に当たります。具体的には、漢方薬を用いて、体内の水分バランスやホルモンバランスを調整し、内臓の機能を調え、血液の流れをさらさらにし、血管壁の柔軟性を保持し、自然治癒力を高めていきます。
「糖尿病体質」のベースにあるのは「陰虚(いんきょ)」です。陰虚とは、血液や体液を意味する陰液が不足している体質や病状のことで、血液や体液による滋養作用が低下している状態です。陰液の不足による手足のしびれ、やせる、などの症状に加え、陰液の不足により相対的に熱が優勢となるので、熱感、手足のほてり、口渇、寝汗などの熱証がみられます。糖尿病はまさにこの状態を来しており、陰虚の治療が糖尿病の漢方治療のベースになります。