痒み、赤み、ぶつぶつができるといった「湿疹(皮膚炎)」に悩む人は少なくありません。西洋医学では、皮膚の炎症を抑えるステロイド外用薬や、痒みを抑える抗アレルギー薬が処方されますが、これは対症療法です。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、湿疹の症状と患者の体質に合わせて漢方薬を処方します。局部的な症状だけを見るのではなく、『患者の体質』という全体的な視点から対処することが大切です。漢方薬を使って体質から改善していきます」と話します。
「数年前から痒みの強い湿疹に悩まされています。腰回りや足など、皮膚の柔らかいところによく出ます」

Aさんの患部は、かさかさと乾燥しており、さほど赤くはなっていません。表面はぶつぶつしておらず、平らです。冬はとくに乾燥がひどく、痒(かゆ)みが強まります。一日のうちでは夜になると、からだが温まり、痒みが増します。湿疹のほかには、よく明け方にこむら返りになります。舌は暗紅色で、舌苔はあまり付着していません。
湿疹(皮膚炎)は、皮膚に起こる炎症です。発生から治癒まで、赤くなったり、ふくらんだり、じくじくしたり、かさぶたができたりと、さまざまな形態に変化します。慢性化して慢性湿疹となる場合も少なくありません。
まず炎症が生じると毛細血管が拡張して赤い斑点になります(紅斑:こうはん)。静脈からの滲出(しんしゅつ)が進むとふくらんでぶつぶつになり(丘疹:きゅうしん)、さらに小さな水ぶくれとなります(小水疱)。水疱が化膿して中身が膿になると、膿疱(のうほう)です。
やがて水疱や膿疱が破れ、中の液体が漏れ出てじくじくしてきます(湿潤)。糜爛(びらん)ともいいます。この浸出液が固まると、かさぶた(痂皮:かひ)になります(結痂:けっか)。そして炎症が生じていた皮膚がはがれ落ちます(落屑:らくせつ)。
表皮が落屑して治癒すればいいのですが、炎症を繰り返すうちに皮膚が厚くなり(肥厚)、硬くざらざらになる場合(苔癬化:たいせんか)もあります。これが慢性湿疹です。色素沈着もみられます。
湿疹の原因には、化粧品や洗剤などの化学物質、ハウスダストや花粉や金属などのアレルゲン、日光や衣服などの物理的刺激、細菌、といった外的因子と、皮脂や汗の分泌状態、寝不足などの健康状態、アレルギー体質、といった内的因子があり、これらが影響しあって湿疹が形成されます。
治療に際しては、西洋医学では皮膚の炎症を抑えるステロイド外用薬や、痒みを抑える抗アレルギー薬など、症状を抑える対症療法薬が使われます。
湿疹(皮膚炎)と関係が深いのは湿邪、熱邪、血瘀などさまざま
漢方では、湿疹に対しても、他の疾患同様、証に合わせて処方します。たとえば丘疹や小水疱、膿疱、糜爛などは湿邪(しつじゃ)が、また結痂や落屑、肥厚、苔癬化などは逆に燥邪(そうじゃ)が強く関与しています。紅斑や膿疱、糜爛は熱邪の影響が強い状態です。色素沈着には血瘀(けつお)も関与しています。痒みには風邪(ふうじゃ)の存在も見逃せません。
湿邪、燥邪、熱邪、風邪は、それぞれ自然界の潮湿、乾燥、火熱、風により生じる現象と似た症状を引き起こす病因です。血瘀は血流が停滞している状態です。
ただし、湿疹という病変の局部的な証だけを弁別(べんべつ)していては、証の判断を誤ります。局部的な証だけでなく、患者の体質という全体的な証もみる必要があります。とくに慢性湿疹の場合は、局部的な証に大きく左右されることなく、患者その人の全体的な証に従って治療することが、慢性湿疹の根本治療には欠かせません。