ストレスや食べ過ぎなどの「胃の痛み」に悩まされている人は少なくないでしょう。一時的な場合もありますが、慢性的に繰り返し痛むとやっかいです。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「慢性的な胃痛に悩んでいる人は、漢方薬で体質から改善すると楽になります」と話します。
「ここ数年、胃痛に悩まされています。鈍い痛みが折に触れて起こります。H2ブロッカーなどを服用しましたが、あまり効果が感じられません」

Aさんは口がよく渇きます。唾液が少なく、口の中が粘つきます。口内炎がよくできます。舌は深紅色で乾燥しており、舌苔がほとんどついていません。
胃痛は、みぞおちから臍(へそ)の上あたりまでの上腹部の痛みを指します。いくつかの臓器が関連していますが、多くは胃の痛みです。一時的な場合もありますが、慢性的に繰り返し痛むことに悩む人も多く、その場合は漢方薬で体質から改善すると楽になります。
胃痛と関係が深いのは、六腑の胃
漢方では、上腹部の痛みは、六腑のひとつである胃の機能(胃気)の失調と関連が深い病変として捉えています。上腹部のことを、漢方では心下(しんか)といいます。したがって胃痛は心下痛などとも呼ばれます。
六腑の胃は、少々わかりにくいのですが、解剖学的な内臓の胃とはまた別の概念です。六腑は中空で、飲食物を受け入れて下方へ運び、排泄する器官です。六腑には、小腸・大腸・胃・胆・膀胱・三焦(さんしょう)があります。そのうちの胃は、口腔内を含め、広く消化器官を指します。
六腑の胃は、五臓の脾(ひ)と協力し合いながら飲食物の消化吸収をつかさどります。まず胃が飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べたものを人体に有用な形(清)に変化させてそれを脾に渡し、残りのかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろします(降濁)。脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血を生成し、全身に輸送します(運化)。このうち、胃の受納・腐熟・降濁機能が失調すると、胃痛として顕在化します。
胃陰虚タイプの胃痛には、麦門冬湯など
冒頭のAさんは、胃の鈍痛、口渇、口の中が粘つく、唾液が少ない、深紅色の乾燥した舌、少ない舌苔などの症状から、「胃陰虚(いいんきょ)」証と判断できます。六腑の胃の陰液(胃液、唾液など)が不足している体質です。陰液が不足して胃が潤わなくなり、痛みが生じています。陰液が少ないために相対的に熱が余るので熱証が生じ、口内炎のほかに、乾嘔(からえずき)、胸やけ、口臭などの症状がみられることもあります。
この場合は、胃の陰液を補う漢方薬で、胃痛を治していきます。Aさんには、麦門冬湯(ばくもんどうとう)を服用してもらいました。その結果、半年ほどで慢性的な胃痛を完治しました。
この症例は、陰液が不足しているために相対的に熱邪が強まって熱証が生じる虚熱(きょねつ)タイプの胃痛です。それとは別に、強い胃の灼熱感など、熱邪の勢いが盛んな実熱(じつねつ)タイプの胃痛なら、「胃熱(いねつ)」証です。胃熱を冷ます三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)などで胃痛を治療します。