心臓の能力が低下し、心臓のポンプ機能がうまく働かなくなり、血液をじゅうぶんに送り出せなくなる「心不全」。息切れやむくみなどの症状が出て、だんだん悪くなり、命を縮めていきます。近年、心不全を新たに発症する人は増加しています。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、心不全は五臓の心・肝・腎などと深く関係していると捉えています。漢方薬で、五臓のバランスの失調や不調を改善することにより、心不全の治療を進めます」と話します。
「10年前より高血圧です。近年は階段や坂道を登ると息切れがするようになりました(労作時呼吸困難)。痰がよく出ます。近ごろ夜間に咳が続くようになり、レントゲン検査で心肥大が認められ、心不全と診断されました。利尿剤を処方されていますが、あまり効きません」

Aさんは、痩せ型の70歳の女性です。足がむくみます。食欲があまりなく、軟便ぎみです。舌は白く、ぽってりとふくらんでおり、その上に湿った白い舌苔が付着しています。
心不全は、心臓の能力が低下し、からだが必要とする血液を心臓がじゅうぶんに送り出せなくなった状態のことをいいます。心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症、狭心症、心筋変性、心膜炎などの心臓の病気だけでなく、高血圧症などによっても心臓に負担がかかり続けることにより、心不全になります。また、加齢、過労、暴飲暴食、ストレス、運動不足、感染症などにより、心臓の機能が衰えたり心臓に負担がかかり続けたり心臓の機能が失調したりしても、心不全になります。
人が生きていくためには、酸素と栄養が必要です。この酸素と栄養は、血液が人体のすみずみまで運びます。その血液をからだ全体に運び循環させるのが、ポンプの役割を果たす心臓です。
このポンプとしての心臓の機能が低下すると、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)が少なくなり(収縮不全)、全身にじゅうぶんな酸素や栄養が行き渡らず、さまざまな症状が表れます。また心臓が血液を受け取る機能が低下すれば(拡張不全)、肺や全身の静脈に血液がたまって鬱血し、また別の症状が生じます。
心拍出量が減ると、心臓は心拍出量を元の量に保つために、心臓を拡大して一回の拍出量を増やしたり、あるいは脈拍数を増やしたり、と自ら対応します。しかしこれらの心臓の対応は、長期化すると心臓の負担となり、心不全が進行します。
心不全にみられる症状はさまざまです。心拍出量が減ると、酸素や栄養がじゅうぶん行き渡らず、疲れやすい、息切れ、だるい、などの症状が生じます。血液が末端にまで行き渡らず、手足の先が冷え、肌の色がわるくなります。脈拍数が上がると、動悸がします。心臓に戻ってくる血液が滞ると、肺に血液の鬱滞が起こって水分が肺に浸み出し、酸欠状態となり、呼吸困難で息苦しくなります。手足などに鬱滞が起こると浮腫(むくみ)が生じます。とくに足の甲や脛(すね)がむくみます。胃腸の粘膜や肝臓がむくむと、食欲がなくなり、お腹が張ったり、鈍痛が起こったりすることもあります。心不全の初期だと坂道で息切れをしたり咳が出たりする程度ですが、進行すると平地を歩いても息苦しくなったり、横になるだけで咳が出たりします。
心不全の原因となっている病気が明らかな場合は、その病気の治療をします。慢性化している場合(慢性心不全)には、利尿剤、ジキタリス製剤、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬などで症状を緩和します。