最近は9月になっても暑い日が続くようになりました。「暑くて食欲がわかない」という人も少なくないでしょう。食欲不振も一時的なものなら問題ありませんが、原因が分からないまま食欲不振が続き、体調に影響するようなら対策が必要です。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「食欲不振は、五臓六腑の脾胃(ひい)の不調、肝(かん)の失調などにより起こります。脾が不調なのか、胃が不調なのかによって症状が異なり、漢方処方も違ってきます」と話します。
「おなかがもたれやすく、食欲がありません。食べてもおいしいと感じません」

Aさんは、疲れやすく、すぐ横になりたくなります。元気がありません。便は軟らかく、よく下痢をします。口唇が乾燥しやすく、口唇の皮がよくむけます。舌は白く、ぽってりとしています。
食べ過ぎや寝不足、過度の緊張などで食欲がなくなることは、よくあることです。せっかくの実りの秋を前に、夏ばてで食欲がわかない、という人も少なくありません。それが一時的な食欲不振で、食欲が数日以内に回復するようなら、なんら問題はありません。しかし明らかな原因がわからないまま食欲不振が続き、体調不良に影響してくるようなら対策が必要です。
食欲不振と関係が深いのは、五臓六腑の脾胃と肝
食欲不振は、一般に消化器系の不調、あるいはストレスなどによる自律神経系の失調が原因で生じます。それらは、それぞれ漢方でいう五臓六腑の脾胃(ひい)の不調、および肝(かん)の失調に相当します。
脾胃は、五臓の脾と六腑の胃を総称したものです。五臓六腑は、内臓ではなく、人体の機能単位です。脾と胃の相互作用により、飲食物の消化吸収が行われます。詳細は、以下のとおりです。
まず六腑のひとつである胃は、飲食物を受け入れ(受納)、消化し(腐熟)、食べたものを人体に有用な形(清)に変化させてそれを脾に渡し、残りのかす(濁)を下の小腸・大腸に降ろします(降濁)。五臓のひとつである脾は、清を吸収して肺に持ち上げ(昇清)、気血(きけつ)を生成し、全身に輸送します(運化)。この脾胃の機能が失調すると、食欲不振になります。気血とは、人体に必要な構成成分のひとつである気(生命エネルギーに近い概念)と血(血液や、血液が運ぶ栄養に近い概念)の総称です。
脾の機能(脾気)が失調すると、運化機能が低下するので、お腹がすかない、食べなくても平気、すぐお腹が張る、などの症状が生じます。一方、胃の機能(胃気)が失調すると、受納機能が低下するので、食べられない、食べ物がのどを通らない、などの症状が表れます。このように、脾が不調なのか、胃が不調なのかによって、同じ食欲不振でもみられる症状が異なり、治療に用いる漢方処方も違ってきます。
一方、肝は五臓のひとつであり、その主な機能は、からだの諸機能を調節することです(疏泄:そせつ)。この肝の機能(肝気)が失調すると、その影響が脾胃の機能に及び、食欲が減退します。
食欲不振の原因のおよそ5割が脾胃の不調、4割が肝気の失調です。残りの1割は、それ以外の臓腑の失調などによるものです。