睡眠中に低呼吸や無呼吸が生じる「睡眠時無呼吸症候群」。日中に強い眠気や集中力の低下などを招き、重度の場合は生活や仕事に支障をきたすこともあります。長期化すると、高血圧症、動脈硬化症、心疾患、脳血管障害などのリスクも高まります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、体内にたまった過剰な水湿『痰飲』を睡眠時無呼吸症候群の原因のひとつと捉えます。漢方薬を用いて、痰飲を直接除去するなどして治療を進めます」と話します。
「日中の眠気と倦怠感が最近ひどいので会社の医務室で相談したところ、睡眠時無呼吸症候群の可能性があるから、と専門の医療機関を紹介され受診しました。さっそく検査をしたところ、睡眠時無呼吸症候群と診断されました」

Aさんは疲れやすく、元気がありません。手足がだるく、動作が億劫です。身長168cmで体重55kgと痩せ型です。舌は淡白色です。
「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」は、睡眠中に無呼吸や低呼吸を繰り返す病気です。何度も呼吸が止まるので体内にじゅうぶんな酸素が供給されず、深い睡眠がとれません。その結果、日中に強い眠気や倦怠感を催します。集中力も低下し、ひどい場合には、生活や仕事に支障をきたすこともあります。
血中の酸素濃度の低下は、高山病のような低酸素状態に等しく、身体に負担がかかります。酸素供給量の低下を補うために心臓は心拍数を増やして全身に酸素を供給しようと働きます。このような心臓や血管への負担が持続、長期化すると、高血圧症、動脈硬化症、心疾患、脳血管障害、糖尿病などが併発されます。
睡眠時無呼吸症候群の原因の多くは、気道が狭くなって呼吸が困難になる閉塞性のものです。閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)と呼ばれています。首まわりの形体と関係があり、体重の増加、加齢、生活習慣、アルコールの摂取、鼻炎などにより上気道を空気が通るスペースが狭まり、症状が悪化します。閉塞性のほかには、中枢からの呼吸指令が失調する中枢性のものがあります。中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)といいます。
一般には、寝ている間に顔に装置をつけて機械を使って圧力をかけた空気を鼻から気道に強制的に送り込んで呼吸させるCPAP(シーパップ)療法や、軽度の睡眠時無呼吸症候群の場合にはマウスピースなどを用いて対処します。気道の邪魔となっていると思われる扁桃や軟口蓋を切り取る手術もあるようです。
睡眠時無呼吸症候群と関係が深いのは、痰飲
漢方では、睡眠時無呼吸症候群の原因のひとつとして、痰飲(たんいん)を重視しています。痰飲というのは、体内にたまった過剰な水湿のことです。この痰飲が気道にたまり、気道を狭めることが、睡眠時無呼吸症候群を引き起こします。体液代謝の失調や低下、炎症、循環障害、ホルモン異常、代謝産物の体内蓄積、食べすぎ、食事の不摂生などによってこの証になります。
なお痰飲のうち、全身に広がり分布するものを「湿」、水様でさらさらと流動性の高い液体を「水飲」あるいは「飲」、粘稠で流動性が低い半凝固状態のものを「痰」などと区別する場合もあります。
漢方では、漢方薬を用いてこの痰飲を直接除去、あるいは痰飲が気道に集まる根本原因を治療することにより、睡眠時無呼吸症候群の治療をしています。