汗を多くかく時期に気になるのが「体臭」。周りの人の匂いが気になるのはもちろん、中高年齢の人なら「加齢臭」などの自分の匂いが気になる人も多いでしょう。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「体臭は『熱邪』が深く関与しています。熱邪には、熱邪の勢いが盛んな『実熱』と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足している『虚熱』の2つがあります。漢方では熱邪が実熱か虚熱かにより、処方を使い分けます」と話します。
「体臭が気になります。年齢からして加齢臭ではないかと心配です」

Aさんは、からだがほてり、とくに夕方から強く熱感を感じます。夜は布団から足を出して寝ています。寝汗をかきます。長年の糖尿病で、病院の薬を飲んでいます。舌は深紅色で、舌苔はほとんどついていません。
皮膚には小さな穴がたくさん開いています。汗や体臭のもとは、そこから出てきています。
皮膚に開いている小さな穴は、おもに毛穴と、汗の出る穴(汗孔)です。汗はおもに汗孔の奥にあるエクリン腺でつくられ、体表に出てきます。エクリン腺からの汗(エクリン汗)は気温が高いときや運動をしたときに出てきて、その気化熱で体温を下げる働きをしています。もし汗が出ないと、真夏の直射日光のもとでは体温がすぐ40度を超え、生命の危険が生じます。正常な発汗は、われわれが健康であることの証です。
思春期になってから腋窩(わきの下)や陰部で発育してくるアポクリン腺からの汗(アポクリン汗)もあります。アポクリン腺は、汗孔ではなく、毛穴の奥のほうに開いています。アポクリン汗は、量としては少ないのですが、たんぱく質の含有量が多いために独特のにおいがします。
運動や、高温多湿の環境、ストレスや緊張、辛いものを食べたときなどの発汗は正常ですが、必要以上に汗が出る状態を多汗症といいます。全身に汗をかく場合もありますし、精神的な緊張や興奮により、手のひらや足のうら、顔面、腋窩(えきか)、陰部などに局所的に発汗する場合もあります。
汗や体臭と関係が深いのは、津液と熱邪
多汗症とはいえないまでも、ちょっとした体調の不調や精神的なストレスなどにより汗をたくさんかくこともよくあります。全身的な多汗は、肥満や、糖尿病、発熱性疾患、甲状腺機能亢進、交感神経の緊張、便秘、皮膚炎、閉経などとも関係があります。必要以上にだらだらと流れる汗は不快なものです。
汗は放っておくと、皮膚表面に常在する雑菌が繁殖し始めます。その雑菌が汗や皮脂、垢(あか)の成分を分解、酸化することにより、においが発生します。またアポクリン汗による独特のにおいが顕著な場合もあります(腋臭症:わきが)。汗ばむ環境や季節で体臭を気にする人は少なくありません。
漢方では、汗は津液(しんえき)が変化したものと捉えています。津液とは、体内で生命活動に必要な水液のことです。そして汗のコントロールをしているのは、衛気(えき)です。衛気は気の一種で、体表を守り、外界からの病邪の侵入から人体を防衛し、体液や汗を管理し、体温を調整します。したがって汗は、衛気の不足や、衛気をつかさどる肺(はい)、衛気の流れの調節をする肝(かん)、汗と関係の深い心(しん)などの臓腑の失調により生じます。
この記事の概要
