免疫力は、人が病気にならないように、ウイルスや病原菌などから守ってくれている力です。病気や体調不良になるかどうかは、免疫力の強さが大きく関与しています。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「西洋医学における病気の治療は病因の排除を重視しますが、漢方では免疫力の強化を重視します。免疫力がじゅうぶんでないと病気が長引いたり、再発したりします。漢方薬で五臓六腑のバランスを調えるなどして人体が持つ生命力や抵抗力(正気)を強め、免疫力を高めていきます」と話します。
「免疫力が低いようで、かぜをひきやすく、毎年のようにインフルエンザにかかっています。去年の冬は2回もインフルエンザにかかってしまいました」

Aさんは、子どもの頃からのどが弱く、よく痛みます。疲れがたまるとすぐ扁桃腺がはれ、扁桃炎になります。病院では慢性扁桃炎と診断されています。免疫力が低いようなので栄養のいいものをバランスよく食べるようにと言われ、食事に気を遣っているのですが、なかなか丈夫になりません。舌は紅く、舌苔があまり付着していません。
免疫力は、人が病気にならないように、ウイルスなど病気の原因となるものから人を守ってくれている力です。人が自分にとって有害なものを識別して排除していく防衛機構です。免疫力がたっぷりあれば人は病気になりにくいのですが、免疫力が低下していると容易に病気になったり体調を崩したりします。病気や体調不良になるかどうかは、免疫力の強さが大きく関与しています。
大気中など外界には無数の病原菌やウイルスが存在し、常に皮膚や粘膜に付着したり、呼吸により鼻、のど、気管支に侵入したりしてきます。このとき免疫力がじゅうぶん備わっていれば、それらが容易に体内に侵入することができず、健康が保たれます。同じ環境で生活していれば同じ程度の細菌やウイルスに接することになりますが、病気になる人とならない人がいるのは、その人の免疫力の強さが違うからです。
体内においても、免疫力は体内の異物を排除して健康体を維持しようと働きます。たとえば、がん細胞が体内で発生しても、免疫力が強ければ強いほど、それが増殖したり転移したりするリスクは低くなります。
免疫力の低下により起こりやすい病気や症状には、がんの他にも、ウイルスによる各種感染症など、多々あります。たとえば、帯状疱疹、結核、肺炎、歯周病、口内炎、口唇ヘルペス、インフルエンザ、感冒、突発性難聴、尿路感染症、カンジダ症、性器ヘルペス、下痢、便秘、水虫、かぜをひきやすい、などです。糖尿病や心疾患、慢性疲労症候群になるリスクが高まるという報告もあります。また免疫力が低いと、病気が治るのに長く時間がかかります。
日常生活において免疫力が低下する要因は多々あり、疲労の蓄積、暴飲暴食など節度のない食習慣、栄養不足、不規則な生活、ストレス、運動不足、逆に激しい運動、睡眠不足、ファッション重視の薄着など寒冷な環境、乾燥、逆にじめじめとした環境、加齢、喫煙、西洋薬の使いすぎなど、さまざまです。
免疫力の低下と関係が深いのは、「正気」
免疫力と病気との戦いにおいて、西洋医学では病因の排除や症状の緩和を重視します。症状が緩和されると楽にはなりますが、たとえば人体が自ら免疫力を高めるために上昇させている体温を下げたり、異物を排除するために自然に出てくる咳や鼻水を抑えたりするために、病原体が長く体内に居座り続けることになり、病気が長引くことがあります。作用の強い西洋薬により体力が弱り、免疫力自体が傷つくこともあります。
漢方では、西洋医学とは逆に、免疫力の強化を重視します。もちろん病因の排除も大切ですが、免疫力がじゅうぶんでないと病気が長引いて慢性化したり再発したりするので、最終的には免疫力の強化が重要だと漢方では考えます。
免疫力が低下する要因には、五臓六腑のバランスの不均衡、あるいは気・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)の不足や停滞など、さまざまな証が関係してきます。五臓六腑とは人体の機能を分類したもので、気・血・津液・精は人体の基本的な構成成分です。たとえば五臓六腑のバランスが失調して発病している場合は、その弱いところを漢方薬で補うなどして体質を改善、強化し、免疫力を根本から高めていきます。
人体が持つ生命力や抵抗力のことを漢方で「正気(せいき)」といいます。漢方では、漢方薬で五臓六腑のバランスを調えるなどして正気を強めていくことにより、免疫力を高めていくわけです。
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