卵巣の中にできた袋の中に液体などがたまり、卵巣が腫れる「卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)」。進行して肥大化すると、腹痛や腰痛、便秘などの症状があらわれます。さらに大きくなると、激痛に見舞われ、破裂する危険が生じます。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、人体の基本的な構成成分である気・血・津液の流れの停滞が卵巣嚢腫に深く関係していると捉えています。漢方薬でこれらの流れを改善することにより、『卵巣嚢腫ができやすい体質』そのものを改善していきます」と話します。
「卵巣嚢腫があります。去年から下腹部に違和感を感じるようになりました。最近になって排卵期にいつも下腹部の同じ場所が痛むようになったので婦人科を受診したところ、すでに5cmの大きさになっている卵巣嚢腫があると診断されました。手術を勧められていますが、したくありません」

Aさんの症状が出はじめたのは、仕事のストレスが強くなった時期と重なります。下腹部の圧迫感、月経痛があります。ほかには、頻尿ぎみでトイレが近い、憂鬱感、いらいらしやすい、月経前の情緒不安定や乳房の張りなどの症状があります。舌は淡紅色です。
卵巣嚢腫は、卵巣の中にできた袋状のものの中に液体などがたまり、卵巣が腫れる病気です。卵巣の腫れを「卵巣腫瘍」といいますが、そのうち、触れると軟らかいものは多くが良性で、これが「卵巣嚢腫」です。硬いしこりが触れる腫瘍(充実性腫瘍)には、悪性の「卵巣がん」などがみられます。
卵巣嚢腫には、卵巣から分泌される透明のさらさらとした水のような液体がたまる「漿液性(しょうえきせい)嚢胞」、どろっとした粘液がたまる「粘液性嚢胞」、卵巣内の胚細胞にできて歯や毛髪などを含む脂肪がたまる「皮様嚢腫」、子宮内膜症が卵巣内に発症したため月経のたびに古い血液がたまっていく「子宮内膜症性嚢胞」があります。子宮内膜症性嚢胞は、古い血液の色から「チョコレート嚢胞」とも呼ばれます。漿液性嚢胞はおもに40~60代の女性に、粘液性嚢胞は閉経後の女性を含む幅広い年代に、皮様嚢腫とチョコレート嚢胞は20~30代の女性に多いとされています。
卵巣は子宮の左右にあり、2~3cmの大きさでアーモンドのような形をしています。卵巣嚢腫の初期段階では自覚症状はほとんどありませんが、進行して肥大化してくると、外側から触れて気づいたり、下腹部に違和感が生じたり、ふくらんだ感じがしたり、腹痛や腰痛、便秘、頻尿などの症状があらわれたりします。さらに大きくなると、卵巣を支えている靭帯ごと卵巣が根元からねじれてしまい(茎捻転:けいねんてん)、激痛に見舞われ、破裂する危険が生じます。
卵巣嚢腫と関係が深いのは、気・血・津液の流れの停滞
漢方では、人体の基本的な構成成分である気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)の流れの停滞が卵巣嚢腫の形成に深く関係していると捉えています。気は生きるために必要な生命エネルギー、血は生命活動に必要な血液や栄養、津液は体内のすべての水液に近い概念です。これら気・血・津液は体内をさらさらと流れているのが理想的ですが、流れが停滞することにより、卵巣嚢腫が形成されます。
気・血・津液の流れが滞りやすい体質の場合、その体質が改善されないかぎり、卵巣嚢腫は大きくなったり再発したりします。漢方には、手術のように一瞬にして卵巣嚢腫を取り除く力はありませんが、漢方薬でそれらの流れを改善することにより、「卵巣嚢腫ができやすい体質」そのものを改善していきます。