膝に痛みがあると、運動だけでなく、日々のちょっとした動作にも支障が出ます。痛みが出るからと体を動かすことを避けていると、足腰を支える筋肉の減少につながります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、筋肉や関節の痛み、運動障害などが生じる証を『痺証(ひしょう)』といい、痺証を引き起こす邪気には風邪、湿邪、寒邪、熱邪などがあります。漢方薬でこれらを除去し、気血の流れや量をととのえて膝の痛みの治療を進めます」と話します。
「膝が痛みます。冷えると悪化するので、冷えないように服装など気をつけていますが、なかなか改善しません」

Aさんの膝の痛みは強烈で、階段を降りるときには激痛が走ります。冷え症で、夏のクーラーも苦手です。膝の痛みは、お風呂に入ると楽になります。舌には白く湿った舌苔が付着しています。
膝の痛みは、筋力の低下や、習慣的な長時間の立ち仕事、体重の増加による膝への負担の増加などにより生じます。また加齢に伴い膝の関節が脆弱になり、まわりの筋肉が衰え、膝への負担が増すことによっても膝の痛みが生じます。
よくみられる疾患には、関節のクッションの役割を果たす軟骨がすり減り、関節が変形する「変形性膝関節症」などの関節炎や、免疫機能の異常によって関節の組織が炎症を起こし、関節が変形して痛む「関節リウマチ」などがあります。
膝の痛みと関係が深いのは、気・血・津液の流れと量
漢方では、痛みは気・血(けつ)・津液(しんえき)などの人体の構成成分の、「流れ」や「量」と深い関係にあると捉えています。気は生命エネルギーに近い概念、血は全身を滋養する血液や栄養、津液は体内の水液を指します。
まず流れについては、中医学に「不通則痛(ふつうそくつう)」という言葉があります。「通じざれば、すなわち痛む」と読みます。体内での気・血・津液の流れがスムーズでないと痛みが生じる、という意味です。気・血・津液が体内をさらさら流れていれば、わたしたちは健康ですが、それらの流れがわるくなると、痛みが生じます。
量については、「不栄則痛(ふえいそくつう)」という原則もあります。「栄えざれば、すなわち痛む」と読みます。人体にとって必要な気・血・津液の量が不足すると痛みが生じる、という意味です。気・血・津液の流れがわるい場合だけでなく、量の不足によっても痛みが発生することを表現しています。エネルギーや栄養、潤いがじゅうぶん供給されないと、その部分が正常に機能できず、痛みが生じます。
筋肉や関節にしびれや痛み、運動障害などが生じる証を、中医学で「痺証(ひしょう)」といいます。人体にくまなく分布している経絡(けいらく)が邪気によって塞がれて閉じ、気・血・津液の流れが妨げられ、筋肉や関節の疼痛やしびれが表れる証です(不通則痛)。経絡は気・血・津液が運行する通路で、人体をひとつの有機体として結びつけ、生命活動を機能させています。経絡の流れが潤滑だと我々は健康ですが、流れが滞ると、痛みが生じるなど、体調を崩します。
痺証は基本的に、気・血・津液が不足して経絡が空虚になっているときに生じやすい証です(不栄則痛)。痺証を引き起こす邪気には、風邪(ふうじゃ)、湿邪、寒邪、熱邪などがあります。