男性特有の臓器である前立腺に炎症が生じる「前立腺炎」。頻尿や、尿もれ、残尿感のほか、不快感や鈍痛などの症状が生じます。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では前立腺炎を、病邪と体を守る正気(せいき)とのバランスで捉えています。前立腺炎における代表的な病邪は湿熱邪で、正気は五臓の腎(じん)です。したがって、漢方薬で湿熱邪を除去したり腎を強めたりして前立腺炎を治療します」と話します。
「頻尿で、排尿時に不快な違和感があります。ときに痛みます。慢性前立腺炎と診断されています」

Aさんは尿道に違和感もあります。仕事が忙しく、毎日深夜まで残業しています。いらいらしやすく、あまりよく眠れません。舌は紅く、舌苔は少なめです。
前立腺炎は、男性特有の臓器である前立腺に炎症が生じた疾患です。前立腺は、膀胱の出口で尿道を取り巻くように位置している、栗くらいの大きさの男性生殖器官です。乳白色の前立腺液を分泌して精液を形成し、精子の運動を活発にします。
症状としては、頻尿、尿意切迫、残尿感、尿の勢いが弱い、排尿直後の尿もれ(排尿後尿滴下)、尿閉、夜間頻尿などの排尿症状や、会陰部の不快感や鈍痛、排尿時の違和感や疼痛、尿道の違和感、下腹部の鈍痛、そけい部痛、陰茎の先端の疼痛、腰痛、精巣痛、射精痛などがみられます。急性期には、発熱、悪寒、前立腺の圧痛も生じます。前立腺炎は、30〜40歳代に多くみられます。
前立腺炎には、尿道からの細菌感染により生じるものと(細菌性前立腺炎)、それ以外のものとがあります(非細菌性前立腺炎)。細菌性の多くは、大腸菌やクラミジアに起因します。非細菌性の前立腺炎は、長時間のデスクワークや乗り物などでの座った姿勢や、自転車やバイクなどの前立腺への機械的な刺激、疲労、ストレス、飲酒、冷え、前立腺への尿の逆流、自律神経活動の亢進などにより生じます。
西洋医学では、細菌性の場合は抗菌薬を用い、非細菌性の場合は抗炎症薬などを用いて治療します。細菌性のものが抗菌薬で根絶できなかった場合は、慢性化します。
前立腺炎と関係が深いのは、正邪のバランス
漢方では前立腺炎を、「正気(せいき)」と「病邪」のバランスで捉えています。正気とは、免疫力など、人体が持つ生命力や抵抗力のことです。病邪とは、細菌感染やストレスなど、疾病を発生させる発病因子のことです。この正邪(正気と病邪)のバランスにおいて、正気が充実していれば疾病は発生しません。逆に病邪の勢いが強い場合や、免疫力の低下など正気が弱まっている場合は、正気が病邪の攻撃から体を守りきれず、病邪が体内に侵入し、前立腺炎になります。
この関係において疾病を治療するためには、正気を補う方法と、病邪を除去する方法とがあります。前立腺炎における代表的な病邪は湿熱邪であり、体を守るおもな正気は五臓の腎(じん)です。したがって漢方では、漢方薬で湿熱邪を除去したり腎を強めたりして前立腺炎を治療します。
漢方薬は、おもに慢性前立腺炎に活用されています。