柔軟剤や制汗剤などに含まれるごく微量の化学物質の影響で体調不良を繰り返す化学物質過敏症。自動車の排気ガス、住宅の建材や塗料などによるケースもあります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では化学物質過敏症を、熱邪(ねつじゃ)と関係が深い疾患と捉えています。漢方薬で熱邪を除去するなどして化学物質過敏症の治療をしていきます」と話します。
「新しい家に引っ越してきて以来、体調がすぐれません。のぼせやすく、寝汗をかきます。病院で検査を受けましたが異常はなく、おそらくシックハウス症候群でしょうから引っ越すしかない、と言われました」

Aさんは頭がぼうっとします。集中力が続かなくなりました。のどがよく渇きます。舌は紅く、乾燥しています。舌苔はほとんど付着していません。
化学物質過敏症は、衣類の柔軟剤の香りで息苦しくなったり、制汗剤の香りでめまいがしたり、と人工の香りなどに含まれるごく微量の化学物質の影響で体調不良を繰り返す病気です。車やトイレ、衣類の消臭剤で頭が重くなったり、目がちくちくしたり、電車の中で隣に座った人の香水の香りで鼻水やくしゃみが止まらなくなったりする場合もあります。湿疹や蕁麻疹、目のかゆみ、目のかすみ、鼻づまり、耳鳴り、不安感、不眠、うつ状態、のぼせ、寝汗、吐き気、胸やけ、便秘、下痢、頻尿などの症状もみられます。
原因として、微量物質の毒性、アレルギー、嗅覚過敏が関与していると考えられています。農薬や自動車の排気ガス、住宅の建材や塗料や接着剤(シックハウス症候群)から放散される化学物質に反応して体調を崩す人も多く、2015年には日本の人口の約7.5%が化学物質過敏症対象者であるという調査結果も報告されています(Arch Environ Occup Health. 2015;70(6):341-53.)。
西洋医学には有効な治療薬が少なく、原因の化学物質をできるだけ浴びない、早めにその場を遠ざかる、こまめに換気する、適度な運動をする、ビタミンやミネラル類をじゅうぶんとる、などの生活改善が治療の中心となっているようです。
化学物質過敏症と関係が深いのは、熱邪
化学物質過敏症で生じることが多い症状である、頭がぼうっとする、集中力の低下、目のかゆみ、不眠、のぼせ、不安感、鼻づまり、湿疹、蕁麻疹などは、熱邪(ねつじゃ)に関連して生じやすい症状です。熱邪は病気の原因(病因)のひとつで、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪です。漢方では、熱邪を除去するなどして化学物質過敏症の治療をします。
熱邪には二つのタイプがあります。熱邪の勢いが盛んになって生じる実熱(じつねつ)と、熱を冷ますのに必要とされる陰液が不足しているために(陰虚)、相対的に熱邪が強まって生じる虚熱(きょねつ)です。陰液とは、人体の基本的な構成成分のうちの、血液や体液などの物質面を指しますが、とくに人体の生命活動や生理機能に必要な体液を意味する津液(しんえき)の不足が、化学物質過敏症と深く関係しています。実熱の場合は熱邪を冷まし、虚熱の場合は陰液を補うことにより熱邪を治療するため、漢方では熱邪が実熱か虚熱かにより、処方を使い分けます。
化学物質過敏症は、微量の化学物質の影響で体調不良を繰り返すことや、嗅覚過敏が関与していることなどから、多くの場合、虚熱タイプです。漢方薬で治療を進め、人体に陰液が補われると、人体は、いい意味で鈍感になり、微量の化学物質に過敏に反応しなくなります。