膀胱が細菌に感染して、膀胱粘膜に炎症を起こす「膀胱炎」。女性に多く、排尿痛や残尿感、尿が濁るといった症状が生じます。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「西洋医学では、抗生物質を使い治療を進めますが、完治しないことや慢性化することも少なくありません。こういう場合に漢方薬が効果を発揮します。漢方では、臓腑の腎や膀胱、肝などの機能をととのえたり、病邪を除去したりすることにより治療を進めます」と話します。
「膀胱炎にかかり、抗生物質で治療しました。尿検査の結果、膀胱炎は完治したとのことで治療は終了しましたが、それ以降も下腹部に違和感が残っています」

Aさんの違和感は、膀胱や尿道あたりのむずむずとした感覚です。排尿時の熱感もあります。尿はやや濃い色をしています。口が渇きます。便秘ぎみです。飲酒や、味の濃いものが大好きです。舌は紅く、黄色い舌苔が付着しています。
膀胱炎は、膀胱粘膜に生じる炎症性疾患です。排尿痛や、残尿感、頻尿、血尿、尿が濁る、排尿困難などの症状が生じます。
膀胱炎は尿路感染症のひとつです。尿路感染症とは、尿路に細菌が感染して炎症を起こしている疾患です。尿路は、尿が体外に排出されるまでの尿の通り道です。左右の腎臓でつくられた尿は、腎臓内の腎盂(じんう)に集められ、細い尿管を下って膀胱に溜まり、尿道から排出されます。尿路感染症には、膀胱炎のほかに、腎盂の細菌感染症である腎盂腎炎があります。
尿路感染症の多くは、大腸菌によるものです。したがって尿道口と肛門との距離が近く、尿道が短い女性に多く発症します。また冷えやストレス、疲労の蓄積などにより、膀胱炎になる場合もあります。
西洋医学では、大腸菌などの細菌に対する抗菌薬(抗生物質など)を使い、殺菌して治療します。多くの場合、この治療法により尿路感染症は完治します。しかし抗菌薬によって殺されにくい細菌も存在することや、免疫力の低下など細菌感染以外の要因が深く関係している場合もあり、完治しないことや再発を繰り返し慢性化することも少なくありません(慢性膀胱炎)。こういう場合に漢方薬が効果を発揮します。
尿路感染症と関係が深いのは、臓腑の腎や膀胱など
漢方では、排尿に関係が深い臓腑の腎(じん)や膀胱の機能をととのえることにより、膀胱炎の治療をします。五臓のひとつである腎は、精を蔵し、成長・発育・生殖をつかさどるほかに、体液の代謝全般の根本的な調整をします。これを「腎は水をつかさどる」といいます。六腑のひとつである膀胱は、尿の貯留と排泄をつかさどります。この腎と膀胱の連携により、体内で不要となった廃液が膀胱に送られ、尿として排泄されます。この代謝全体の調節は、五臓の肝(かん)がつかさどります。他の臓腑や病邪が病因となる場合もあります。
したがって漢方では、臓腑の腎や膀胱、肝などの機能をととのえたり病邪を除去したりすることにより、尿路感染症の治療を進めます。
なお中医学では尿路感染症は淋証と称され、尿に砂石が混じる石淋、米のとぎ汁のような白濁した尿が出る膏淋、血尿を伴う血淋、尿が出づらく下腹部が張る気淋、灼熱痛を伴う熱淋、疲労時に症状が表れる労淋などに分類されます。治療には、それぞれの証に合わせて処方を判断し、活用します。