人間なら誰しも不安を感じることあります。程度には個人差がありますが、不安が非常に強いものであったり、長く続くものであったりする場合は、一般に五臓六腑の「心(しん)」の機能が失調しています。「漢方では不足した『心』を養ったり、高ぶる『心』を抑えることで、不安を感じやすい体質を治していきます」と幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは話します。
「私は臆病でびくびくしやすいほうで、なにかにつけ不安を感じます。ひどいときには、どきどきと動悸(どうき)がします。いわゆる小心者タイプです」
43歳の男性です。社会人になってからずっと仕事が忙しく、常に疲れがたまっているようです。「よく夢をみるからなのか、熟睡している気がしません。明け方にはいつも目が覚めてしまい、朝から疲れています。40歳を過ぎた頃から動悸が気になります。めまいや立ちくらみもあります」と話していました。舌は白っぽい色をしています。
日常生活のちょっとしたことで不安を感じるのは、病気というわけではなく、人間らしい健全な心の動きです。特に、転勤や引越しを伴う人事異動や、就職・転職といった環境の大きな変化があるときは、なおさらでしょう。
しかし、不安感や焦燥感、不眠、集中力の低下、息切れ、胸苦しさ、動悸などが長期に続くようであれば、根源の不安を和らげて体調を改善したいものです。
いわゆる西洋薬の抗不安薬などは、神経細胞に直接働きかけます。一方、漢方薬では「不安を感じやすい体質」そのものの改善を通じて、根本的な解決を目指していきます。
不安を感じやすい体質とは
漢方では、不安感は五臓六腑(*)の心(しん)の機能低下が大きく影響していると考えます。
心は、人間の意識や思惟(しい)など神志(しんし:高次の精神活動)と、心臓を含めた血液循環(血脈)をつかさどることが大きな役割です。このうち神志をつかさどる心の機能の方がバランスを崩すと、精神活動が安定しなくなり、不安感が募りやすくなります。
そもそも心がバランスを崩す原因には、大きな環境の変化や、強いショック、長引くストレスなどがありますが、同じ環境変化やストレスがあっても不安を「感じる人」と「感じない人」がいます。前者の場合、根本には、心の機能の低下があると考えられます。
「心血(しんけつ)」を補って不安を解消
Aさんのような証を「心血虚(しんけっきょ)」といいます。“神志をつかさどる心”の機能に必要な心血(滋養分)が不足している体質です。過度の心労や、過労により心に負担がかかり、心血が消耗してこの証になるといわれています。
Aさんも社会人になって疲れが溜まる生活が続き、心血虚になったようです。動悸、夢をよく見る、舌の色が白っぽい、などの症状は、この証の特徴です。緊張しやすい、驚きやすい性質(臆病)があります。
この体質の場合は、“心血を潤す漢方薬”を使います。代表的な処方には帰脾湯(きひとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。Aさんは帰脾湯を8カ月間服用し、不安感から解放されました。
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