胃の粘膜が傷つき胃壁に穴が開いていく「胃潰瘍」。ピロリ菌感染のほか、ストレス、喫煙、飲酒などが原因になります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、胃潰瘍の根本的な原因は胃の失調にあると捉えています。胃の機能(胃気)が弱い、あるいは胃の陰液(胃陰)が不足していると胃潰瘍になります。漢方薬を使い、胃気の失調や胃陰の不足を正常化させて、胃潰瘍の根本治療を進めます」と話します。
「去年、胃潰瘍がみつかりピロリ菌を除菌しました。しかし1年後の検査で胃潰瘍の再発がみつかりました」

Aさんは、去年ピロリ菌の除菌をした以降はH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)を飲み続けています。それでも食後に胸やけがします。疲れやすく、軟便ぎみです。悪心や腹部膨満感があります。舌は白くぽってりしており、その上に白くねっとりとした舌苔が付着しています。
胃潰瘍は、胃の中でタンパク質を消化する胃酸やペプシンが、胃壁(タンパク質でできています)自身を消化してしまい、胃壁がえぐられて穴が開いていく病気です。飲食物を消化しようとする胃酸やペプシンなどの「攻撃因子」と、胃壁を守ろうとする粘液などの「防御因子」のバランスが崩れて攻撃因子が強くなりすぎると、胃酸やペプシンにより胃が侵食され、潰瘍が生じます。
通常は攻撃因子と防御因子が均衡しており胃壁が侵されることはありませんが、胃酸やペプシンの過剰分泌や、ストレス、アルコール、タバコ、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)などの影響で、攻撃因子が増強すると防御因子が胃壁を守りきれず、潰瘍になります。あるいは粘膜、粘液、粘膜の血流などの防御因子が弱体化することにより攻撃因子の胃壁への容易な侵入が許されることになると、潰瘍になります。
漢方薬は、「ピロリ菌を除去したが完治しない」「胃潰瘍の薬を飲むのをやめると再発する」「胃潰瘍の再発を繰り返すので根治したい」といった場合に、潰瘍ができやすい体質そのものの改善を目的に活用されています。
胃潰瘍と関係が深いのは、六腑のひとつである胃の失調
漢方では、胃潰瘍の根本的な原因は六腑のひとつである胃の失調にあると捉えています。六腑の胃は、五臓の脾(ひ)と協力し合いながら飲食物の消化吸収をつかさどります。おもに消化は胃、吸収は脾がつかさどります。六腑の胃は、解剖学的な胃ではなく、口腔内を含め広く消化器官を指します。
胃の機能(胃気)が弱いと、胃の蠕動が弱く、食中や食後に胃酸が分泌され続けるので、胃潰瘍が発生します。免疫力の低下と関係が深いので、ピロリ菌の繁殖や活性化とも関係があります。逆に胃気が上逆すると、胃内に胃酸が滞留して胃潰瘍を形成します。あるいは胃の陰液(胃陰)が不足していると、胃壁を守る粘液が足りず、胃潰瘍になります。
したがって漢方では、患者さんの体質に合わせて胃気の失調や胃陰の不足を正常化させることにより、胃潰瘍の根本治療を行なっています。