脳の血管に血栓が詰まったり血管が細くなったりする「脳梗塞」。命を落とす原因になるほか、様々な後遺症につながる怖い病気の1つです。発症時には現代医学的な処置が不可欠ですが、再発防止、後遺症の緩和、予防に漢方薬が用いられるケースは少なくありません。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では脳梗塞を、脳などの臓腑や痰飲などの病邪と関係が深い疾患と考えます。漢方薬を使い、臓腑の機能を安定化し、病邪を除去していきます」と話します。
「2年前に脳梗塞で倒れました。それ以来リハビリをしています。少しずつ改善していますが、話し言葉を明瞭に発音できない後遺症(構音障害)が残っています」

Aさんの構音障害は最初の頃より改善されていますが、まだ以前のようには話せません。話していることが相手に伝わらないときなどは、いらいらしてしまいます。驚きやすいところもあります。眠りが浅く、朝早く目が覚めます。痰がたくさん出ます。舌を出してもらうと、細かくふるえていました。舌にはべっとりとした黄色い舌苔が付着していました。
脳梗塞は、脳の血管に血栓が詰まったり血管が細くなったりし、その先に血液が流れにくくなる疾患です。じゅうぶんな酸素や栄養が供給されなくなり、脳の組織が壊死していきます。
脳梗塞には、脳の細い血管が詰まるラクナ梗塞、脳の太い血管や頸動脈に血栓ができて詰まるアテローム血栓性脳梗塞、心臓にできた血栓が血流に乗って脳に運ばれ脳の太い血管を詰まらせる心原性脳塞栓症の3つの型があります。
脳梗塞発症時には現代医学的な処置が不可欠ですが、脳梗塞の再発防止、後遺症の緩和、予防に漢方薬が用いられるケースは少なくありません。
脳梗塞と関係が深いのは、脳などの臓腑や、痰飲などの病邪
中医学では、脳は奇恒(きこう)の腑のひとつに位置づけられており、その機能は臓腑の心(しん)・肝(かん)・腎(じん)の総合的な作用により行われていると捉えています。脳の発達や機能維持は「髄を生じ、脳に通じる」腎との関わりが深く、脳の人間らしい高次の精神活動は「神志(しんし)をつかさどる」心と関連しており、脳の情緒活動や自律神経系は「疏泄(そせつ)をつかさどる」肝と関係しています。脳梗塞は、これら心・肝・腎の機能失調と深く関係しています。
なお奇恒の腑とは、中空である点では腑のようですが、精気を蔵するという点では臓のような存在なので、五臓にも六腑にも入れるわけにいかず、奇恒(いつもどおりではない、の意)と呼ばれています。
また痰飲(たんいん)、血瘀(けつお)、気虚、内風などの病邪の存在も、脳の機能障害を生じます。たとえば痰飲は円滑な脳の機能の妨げとなり、血瘀は血流障害の引き金となります。気虚は脳の機能を低下させます。内風は、脳の機能を乱します。
現代医学的には脳梗塞は脳血管障害のひとつですが、中医学的には上記のように臓腑機能失調や病邪の存在を背景に生じる疾患です。したがって、これらの臓腑機能の安定や病邪の除去は、脳梗塞の予防にもなります。なぜなら心・肝・腎が安定して機能し、病邪が存在していなければ、脳の機能も安定し、脳に余分な負担もかからないからです。