ある日突然、耳の聞こえが悪くなる「突発性難聴」。働き盛りの40代、50代に多く見られ、原因は不明。いつ誰がなってもおかしくない病気です。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、突発性難聴を五臓の肝や腎、あるいは熱邪と関係が深い疾患と捉えています。これらを漢方薬で調え、状態を改善していきます」と話します。
「2か月前に左耳が突然聞こえにくくなり、耳鼻科で突発性難聴と診断されました。耳がつまっているような感覚です。耳鼻科でステロイド治療を続けていますが改善しません」

Aさんは、低音が聞こえづらく、まわりの音や自分の声が響いて聞こえます。手足が冷え、足がむくみます。このところ残業続きで疲れがたまっている状態がずっと続いています。舌は白く湿っており、その上に白く湿った舌苔が付着しています。
突発性難聴は、突然、片耳が聞こえにくくなる疾患です。まれに両耳が聞こえにくくなることもあります。聞こえにくさとともに、耳鳴り、めまい、吐き気、耳の閉塞感(耳閉感)を伴う場合もあります。
原因としては、精神的なストレスの負荷や、血流障害、ウイルス感染、炎症などさまざまな説がありますが、はっきり分かっていないのが現状のようです。
突発性難聴と関係が深いのは、五臓の肝、腎、熱邪
漢方では、突発性難聴は五臓の肝(かん)や腎(じん)、あるいは熱邪(ねつじゃ)と関係が深い疾患と捉えています。
肝は五臓のひとつで、からだの諸機能を調節し、情緒を安定させる働きを持ちます。自律神経系と関係が深い臓腑です。肝の機能(肝気)は、ストレスや、緊張の持続、激しい感情の起伏などの影響で失調します。
腎は、生きるために必要なエネルギーや栄養の基本物質である精(せい)を貯蔵し、人の成長・発育・生殖をつかさどる臓腑です。さらに「耳に開竅(かいきょう)する」臓腑として、耳の機能と深く関係しています。開竅とは、五臓の機能が反映されやすい器官のことを指します。五臓の状態は開竅する場所に表れやすく、耳を腎竅(じんきょう)と呼びます。したがって耳の疾患に腎の失調が関係していることがよくみられます。
熱邪は、自然界の火熱により生じる現象に似た症状を引き起こす病邪で、炎症、化膿、熱感、発熱、充血、疼痛、出血などの熱証を表します。