男性特有の臓器である前立腺は40~50代から肥大してきます。そして頻尿や脳漏れ、残尿感などの男性の尿のトラブルの原因になります。幸福薬局の薬剤師、幸井俊高さんは、「漢方では、気・血・津液の流れの停滞が前立腺肥大症と関係が深いと考えます(実証)。五臓の腎の衰えにより、前立腺肥大症となる場合もあります(虚証)。実証か虚証かにより、用いる漢方薬を使い分けます」と話します。
「尿の勢いがわるくなり、尿が出始めるまでに時間がかかるようになりました。残尿感もあります」

Aさんは、排尿直後の尿もれ(排尿後尿滴下)が増えました。検査で尿流量が最大で12ml/sと低く、前立腺肥大症と診断されました。下腹部に膨満感や痛みがあります。舌は紫色をしています。
前立腺は、膀胱の出口で尿道を取り巻くように位置している、栗くらいの大きさの男性生殖器官です。乳白色の前立腺液を分泌して精液を形成し、精子の運動を活発にします。この前立腺が50歳頃から次第に肥大して尿道を圧迫するようになると、排尿障害が生じるようになります。これが前立腺肥大症です。中医学では「癃閉」(りゅうへい)といいます。
よくみられる症状は、尿の勢いがわるくなる、尿が出始めるまでに時間がかかる、尿が出終わるまでに時間がかかる、排尿の途中で尿が途切れる、などの排尿困難や、頻尿、とくに夜間頻尿、会陰部の不快感、尿意切迫感、残尿感、排尿直後の尿もれ(排尿後尿滴下)、尿失禁などです。最悪の場合は尿がまったく出なくなります(尿閉)。
原因として考えられるのは、加齢、男性ホルモン分泌量の変化、肉食に偏った食生活やアルコール多飲の習慣、肥満などのほかに、脂質異常症、高血圧症、糖尿病などの疾患も関係しているといわれていますが、詳細は明らかではないようです。
西洋医学では、α1遮断薬などの薬物療法や、内視鏡やレーザーによる手術などが行われます。
前立腺肥大症と関係が深いのは、気・血・津液の流れの停滞
漢方では、人体の基本的な構成成分である気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)の流れの停滞が、前立腺肥大症に深く関係していると捉えています。気は生きるために必要な生命エネルギー、血は生命活動に必要な血液や滋養作用、津液は体内の水液に近い概念です。これら気・血・津液は、適量が体内をさらさらと流れているのが理想的ですが、流れが停滞すると気滞・血瘀・湿熱(詳細は後述)などの病邪と化し、その結果、前立腺肥大が形成されます。
あるいは、五臓の腎の衰えにより、前立腺肥大症となる場合もあります。「腎は二陰に開竅(かいきょう)する」といい、腎は生殖器官や大小便の排泄と深い関係にあります。この腎の機能低下により、前立腺肥大症となるケースも少なくありません。なお開竅とは、五臓の機能が反映されやすい器官のことを指します。
気滞・血瘀・湿熱などの病邪による前立腺肥大症は実証、五臓の腎の衰えによる前立腺肥大症は虚証です。病気の発生において、病邪の勢いによるものが実証、正気(人体が病邪から身を守る力)の衰えによるものが虚証です。漢方では、証の虚実を見極めることが、前立腺肥大症の治療のポイントとなります。証の違いにより、治療法つまり用いる漢方薬が大きく異なってきます。