「医療とは、医師から受けるもの」、こんな一方通行のイメージを私たちは抱いてしまいがちです。しかし、最善の医療は患者がかしこく「手に入れるもの」という発想を持つと、今よりももっと満足のいく治療を受けられたり、医師とのコミュニケーションをもっとうまくできるようになるはずです。臨床経験が豊富で、遠方からの患者を多く受け入れる緑蔭診療所の橋口玲子先生に、知っておくと絶対役立つ、患者の心得を指南してもらいます。
前回は、「かかりつけ医」の選び方、使いこなし方についてお話ししました。今回は、実際に病院を受診するときに、つらい症状や診てほしいことを医師にどう伝えれば良いのか、そのコツについてお話ししましょう。
「先生に『つらい症状はいつから?』と聞かれたから手帳を開いたけど、よく思い出せない。症状も、痛みや胃の不快感など不調を挙げればきりがなくて、話しているうちによくわからなくなってしまった」

「この先生は相談しやすそうだ」と思うと、Cさんのように山のように症状を訴えてくる人がいます。また、医師が症状の経過を知りたくて「いつからですか?」と質問しても「ええと…」と答えに詰まってしまう患者さんもいます。
うつ病や生活習慣病、アトピー性皮膚炎など、本来ならいろいろな専門科をまたいで受診しないといけないような病気も、かかりつけ医であればまとめて相談に乗ってもらうことが可能ですから、患者さんのほうもつい「あれもこれも」という発想になるのでしょう。
また、普段病気をしない人はなおさら、いつもと違う体の状態があったら気になって、「すべてを伝えなくては」と意気込んでしまう気持ちもわかります。
「すごく具合が悪い」と延々と症状を羅列する患者さんの話を聞いた後に、よくよく質問してみると「あっ、それは去年のことなのですが」と言われて拍子抜けしてしまったこともあります。
医師は、患者さんから聞き取った情報や検査結果をもとに、診断を下すトレーニングを受けていますが、そのために大事なのは、症状の中から「緊急性」や「優先順位」を導き出すことです。頭のなかで患者さんから集めた情報に重み付けをしたり、ふるいにかけたりして、治療の優先順位を決めていきます。
ところが、一度にあまりにもたくさんの症状を羅列されると「本当に治療すべきこと」が見えなくなりがちです。また、いろいろな不調が並行して表れているときは、一度にすべての不調を治すのではなく、特定の症状に絞って治療を行うことも少なくありません。まずは優先的に解決すべき不調について治療をし、それが改善しても頑固に残っている症状があれば、次の治療のステップへとつなげる。順序だった治療には、患者さんからもたらされる情報が整理されていることも大切なのです。
患者さんにとっても「せっかく受診したのに満足のいく治療を受けられなかった。対処してほしかったのは別の症状の方だったのに」という失望につながることもあります。ポイントが絞られていない会話を続けるうちに、待合室にいる次の患者さんの待ち時間も、どんどん増えるばかりです。
- 次ページ
- 伝え上手になる二つのポイント