日経グッデイ

ベテランドクターが教える 上手な医者のかかりかた

「かかりつけ医」を使いこなすコツ

必要以上に“義理立て”せず臨機応変に使い分けを

 橋口玲子=緑蔭診療所医師

「医療とは、医師から受けるもの」、こんな一方通行のイメージを私たちは抱いてしまいがちです。しかし、最善の医療は患者がかしこく「手に入れるもの」という発想を持つと、今よりももっと満足のいく治療を受けられたり、医師とのコミュニケーションをもっとうまくできるようになるはずです。臨床経験が豊富で、遠方からの患者を多く受け入れる緑蔭診療所の橋口玲子先生に、知っておくと絶対役立つ、患者の心得を指南してもらいます。

 前回は、「高度で手厚い医療を受けられる」というイメージが強い大学病院のメリットとデメリットについてお話ししました。体の不調に悩む方を全体的に見ると、大学病院ほどの専門的な治療を必要としない患者さんのほうが多いと感じます。

 だからこそ、待ち時間がそれほど長くならず、気軽に受診できる「かかりつけ医」を見つけておくことが大切です。私自身、かかりつけ医という立場で診療を行っていますが、ときにはこんな言葉を患者さんからかけられることがあります。

Bさん(女性、62歳)
神経痛や肩凝りを治してくれたから、骨粗鬆症も治療してくれると思った。なんでも診てくれる先生だと思っていたのに、がっかりしちゃったわ

 Bさんは内科の不調とともに神経痛や肩の凝りなどもあり、漢方薬や西洋薬を組み合わせた治療を行っていました。あるとき整形外科で「背骨の圧迫骨折がある」と診断された、と打ち明けられ、私のところで治療ができないかと相談されました。

 背骨の圧迫骨折は、医学的には「脊椎(せきつい)圧迫骨折」といいます。骨粗鬆症がある人の場合、ふとした衝撃により脊椎が押しつぶされるように骨折することがあるのです。

 私はそのとき、「進行した骨粗鬆症である場合、血液検査や尿検査などの数値や年齢を勘案してどのような治療がベストかを決定する必要がある。まだ62歳のBさんは整形外科で治療をしたほうがいい」と判断しました。そこで、「骨粗鬆症については整形外科で診てもらってください」とお伝えすると、落胆されたようでした。

 もちろん、Bさんのおっしゃることも理解できます。確かにかかりつけ医は、患者さんを「丸ごと診る」のが最大の特徴です。病院に行くにはお金も時間もかかるので、できれば1カ所で済ませたい気持ちはよくわかります。

 街中で開業しているかかりつけ医であれば、予防接種のついでに胃薬や湿疹の軟膏を処方してもらうことも可能でしょう。ただ、理解していただきたいのは、骨粗鬆症の予防的な治療はかかりつけ医でも可能ではあるものの、Bさんの場合のように、年齢の割に進行した骨粗鬆症の治療となると、かかりつけ医ではカバーできないため、それぞれの専門科で治療を行うことになる、ということです。

 つまり、必要に応じて専門的な医療機関へ紹介することも、かかりつけ医の重要な役割なのです。そして、病状が落ち着けば、「今後はかかりつけ医でこの薬をもらってくださいね」と、いわばベースキャンプであるかかりつけ医のもとに戻ってくる。このように医療機関同士が連携しあえることが理想で、その連携関係の中でこそ、かかりつけ医の役割も重要になるのです。

医者を臨機応変に「使い分け」してよい

かかりつけ医はなんでも相談できる身近な存在ですが、ほかの医師を受診したことを後ろめたく思う必要はありません。(©578foot-123RF)

 私はよく患者さんに「医者や医療機関は使い分けてくださいね」とお伝えしています。

 例えば、夜中に具合が悪くなったら救急病院に行き、かかりつけ医が休診の日は別の医院にかかり、そこでの治療内容が気になるならば後日お薬手帳を持参してかかりつけ医に相談に行けば、より安心でしょう。また、かかりつけ医が遠方にあるときは、かぜで熱が出たときや予防接種を受けるときなどは、近所のそれほど混み合っていない医院に行くのもよいでしょう。

 「なにがなんでもかかりつけ医に一本化」とこだわる必要はありません。よく、かかりつけ医に対して、他の先生にかかったことを後ろめたく思う人がいるとも聞きます。しかし、かかりつけ医が24時間365日対応するのは事実上、不可能ですから、ケースバイケースで「どこにかかるか」を判断するほうが、かしこいやり方といえるでしょう。

 重い病気が疑われるときはかかりつけ医が大学病院に紹介をしますので、安心してください。かかりつけ医もかつては大学病院などで修行を重ねてきたのですから、重篤な症状やさらなる検査が必要な病気かどうかを見分ける力は、しっかり備えています。

 ただし、「継続してひとつの病院で管理するべき病気」があることも、頭に入れておいてください。

 ぜんそくやアトピー性皮膚炎などの「慢性アレルギー疾患」では、たびたび病院を変えると「どういう治療を行い、どのように症状が変化してきたか」というこれまでの大まかな経過をつかむことが難しくなってしまいます。例えばぜんそく症状がある人なら、

  • 基本的な治療は、ぜんそく外来へ
  • 夜中に発作が起こったら、夜間救急のある大きな病院へ
  • 風邪程度であれば、近くのクリニックへ

 というふうに、「治療の中心となる専門医」と「時間外や緊急時に応対してもらう医者」を使い分ける、というやり方がお薦めです。

かかりつけ医の選び方 4つのポイント

 自分や家族のかかりつけ医をどんな視点で見つければよいか、目安にしたいポイントをお伝えしましょう。

通いやすい

 仕事が多忙である人はもちろん、お子さんや高齢者の受診の場合は特に、交通の便がよく通いやすいところが良いでしょう。まずは自宅から近いところを尋ねてみてもいいかもしれません。

診断名や見通し、不測時の対応についてきちんと説明してくれる

 内科で初診の場合、問診のあとに聴診器で心音や呼吸音を聴き、喉の状態を見て、寝た状態でお腹を触るなどの診察が一般的には行われます。患者さんの訴えを聞きながら医師は情報を集め、病名を絞り込んでいきます。その上で、考えられる病気と処方する薬について説明し、「このような症状が出たら夜間でも救急に受診を」「○日後にまた受診を」などの指示をするはずです。このように、診断内容、治療の見通しや予想されるアクシデント(発作など)、処方薬の説明をきちんとしてくれるところなら、信頼できるといえます。

質問にていねいに答えてくれる

 説明を受けた上で不安なことがあれば、ぜひとも質問をしてほしいと思います。医師の側からすると「あまりにも当然のこと」であるために説明していないことを患者さんが実は不安がっている、というケースがけっこうあるものです。質問に答えるのを面倒くさがったり、機嫌が悪くなるような医師は良い医者とはいえません。そのような医師のところには、次から行かなくてよいのです。

ネット上の口コミは参考程度に

 まず最初にインターネットの口コミ情報に目を通す、という方も多くいますが、どんな状況で受診したかは千差万別で、匿名個人の感想はさして参考にはなりません。直接診察を受けたときの受け答えの印象、受付や看護師の対応、待合室の快適さなどを総合してご自身で判断してほしいと思います。


 次回は、限られた診療時間のなかで、医師に上手に質問するための「質問のまとめ方」についてお話ししましょう。

(まとめ:柳本 操=フリーランスエディター)

橋口 玲子(はしぐち れいこ)
緑蔭診療所(神奈川県南足柄市)医師
橋口 玲子(はしぐち れいこ) 1954年、鹿児島市生まれ。東邦大学医学部を卒業。東邦大学医学部客員講師、および薬学部非常勤講師、国際協力事業団専門家を経て、1994年より現職。現代医学と漢方を併用した診療を行う。循環器専門医、小児科専門医、認定内科医、医学博士。成人および小児の心身症などのメンタルヘルス不調、高血圧、糖尿病などの生活習慣病やアレルギー疾患の診療のほか、ハーブ療法やアロマセラピーを用いたセルフケアに関する講演、執筆活動も行う。
(写真:室川イサオ)