「医療とは、医師から受けるもの」、こんな一方通行のイメージを私たちは抱いてしまいがちです。しかし、最善の医療は患者がかしこく「手に入れるもの」という発想を持つと、今よりももっと満足のいく治療を受けられたり、医師とのコミュニケーションをもっとうまくできるようになるはずです。臨床経験が豊富で、遠方からの患者も多い緑蔭診療所の橋口玲子先生に、知っておくと絶対役立つ、患者の心得を指南してもらいます。
この連載ではこれまで、患者さんと医療者の間に生じがちな「思い込み」や「ギャップ」を題材にして、よりよい医療を受けるヒントをお届けしてきました。最終回となる今回は、みなさんがご自身にとって最善の医師に出会うために、医師のどういったところを見るべきか、私なりに思うことを、3つのNG例を基にお話したいと思います。キーワードは「コミュニケーション力」です。
こんな医師はNG【1】 患者の訴えをきちんと聞かない
先日、当院を受診されたIさんは、こんなことをおっしゃいました。
「ここ2週間ほど、特に夜間に咳がひどくなるので、勤務先の近くにある病院にかかったのですが、担当した先生は、病状についてあまり質問もせず、説明もないまま抗生剤を出されました。なんか、話しづらい先生で…。薬を受け取ったものの、なんとなく飲むことに抵抗があって、2日で飲むのを止めてしまいました。症状も良くなっていないんです」
40代半ば、働き盛りのIさんは、長引く咳がつらくて受診をしたものの、その病院の医師からは症状に関する十分な説明を受けられなかったといいます。結局、処方された抗菌薬(抗生剤)に対するIさんの抵抗感は払しょくされず、薬を飲み切らなかったこともあり、症状が改善されないままでした。
治療や処方薬に対する不安は、多かれ少なかれ誰にでもあるものです。治療について、患者さんが「不安に思いそうなこと」「知りたがっていること」を伝えるのが、医師として当たり前の仕事なのですが、このケースでは、それが十分になされていなかったようです。
Iさんのケースのように、問診を丁寧にせず、説明が不十分なまま薬を処方する医師の下では、患者が治療に不信感を抱き、期待していた通りの効果が得られない、という残念な結果になりがちです。
診察中は、医師が以下のようなポイントを踏まえて話を進めてくれるかどうかに注意してみましょう。わからないことがある場合は遠慮なく質問をしてください。
- 患者からの訴えの聴取
(どんな症状に一番困っていて、何を不安に感じているかに耳を傾けている) - 病状についての説明
(病名を特定できなくても、想定される範囲で、現在の状態を引き起こしている原因について説明してくれる) - 処方される薬についての説明(処方する目的、飲み方、服用期間)
- 注意すべきこと(すぐさま受診すべき症状など)
- 再診の目安(次の受診の目安についての説明など)