日経グッデイ

ベテランドクターが教える 上手な医者のかかりかた

お薬手帳はあなたのカラダの「代弁者」

副作用や無駄な受診の防止に力を発揮

 橋口玲子=緑蔭診療所医師

「医療とは、医師から受けるもの」、こんな一方通行のイメージを私たちは抱いてしまいがちです。しかし、最善の医療は患者がかしこく「手に入れるもの」という発想を持つと、今よりももっと満足のいく治療を受けられたり、医師とのコミュニケーションをもっとうまくできるようになるはずです。臨床経験が豊富で、遠方からの患者を多く受け入れる緑蔭診療所の橋口玲子先生に、知っておくと絶対役立つ、患者の心得を指南してもらいます。

 前回は、ネット上に氾濫する情報に振り回されず、医師としっかりコミュニケーションをとる必要についてお話しました。今回は、医療を受けているときのこんなハプニングについて、考えてみましょう。

Eさん(女性)
「先日、かぜで初めて処方された薬を飲んだら、その直後にじんましんが出てびっくり…。薬のせいかと思い心配で、飲むのを止めてしまったのだけど、まだのどが痛くて…」

 処方された薬を飲んだ後にじんましんが出ると、誰しも慌てるし、不安になるものですね。

 薬疹(*)を心配して受診すると、おそらく医師から「どのような薬を飲みましたか?」と聞かれることでしょう。たまに薬にものすごく詳しい患者さんがいらっしゃいますが、ほとんどの方は飲んだ(飲んでいる)薬について的確に答えることはできません。でも、それが当たり前だと思います。

 例えば、かぜで薬が処方されるときには、咳を止める、痰を切る、鼻水を止める、頭の痛みをとる―など、目的が異なるいろいろな種類の薬が同時に処方されることがほとんど。複雑で自分では到底把握できそうにもない薬の情報を見渡したいときに、役立ってくれるのがお薬手帳です。

*薬疹とは、薬が原因で起こる発疹のこと。じんましん、紅斑(盛り上がりのない赤いまだらのような発疹)、なかなか治まらないコインの形に似た発疹など、症状の出方はさまざまです。

お薬手帳の内容から経過がわかることも

お薬手帳の情報は医師にとっても有益なものが多いのです。

 お薬手帳とは、いつ、どこで、どのような薬を処方してもらったかを記録しておく冊子です。薬局で薬が手渡される時に、シールを貼ってもらったり、受け取ったことがある人が多いでしょう。

 お薬手帳は薬局でやり取りされることが多いので、薬剤師だけがそこに記載されている情報を使っているように感じるかも知れませんが、実は医師にとっても有益なものが多いのです。

 例えば、初診の患者さんが、他の医療機関でどんな薬を処方されてきたかを、さかのぼって把握することができます。特に糖尿病や高血圧などの慢性疾患であれば、処方薬の変化で、ある程度経過を知ることが可能になります。

 冒頭のEさんは、別の医療機関で処方された薬による薬疹を心配していたことを、診察時に打ち明けてくれました。Eさんが持参したお薬手帳を見せてもらったところ、セフェム系というグループの抗生物質が処方されていました。過去の記録から、これまで飲んだことがない抗生物質であることがわかりました。

 一般に薬疹とは、体の免疫系が、ある薬の成分を異物として認識し、過剰に反応する記憶がつくられた後に、再び同じ成分が体に入ってきた時に起こる「アレルギー性薬疹」を意味します。ですから、初めて飲んだ薬で、飲んだ直後にじんましんが起こることは考えにくく、Eさんのような場合は、薬疹の可能性は低いと考えられます。

 一方、セフェム系抗生物質の場合、例えば、Aという薬にアレルギーがあれば、初めて飲むBという同じセフェム系の薬に対しても、飲んだとたんに薬疹が出てしまうことがあります。しかし、繰り返し同じグループの薬を飲んでも大丈夫だったのであれば、セフェム系抗生物質による薬疹の可能性も除外できます。Eさんの場合、お薬手帳の情報から、それまでに何度もセフェム系抗生物質を飲んだことがあることが分かり、セフェム系抗生物質による薬疹の可能性も極めて低いことがわかりました。

 ただし、初めて飲んだ薬でも、続けて飲んでいると数日から数週間で薬の成分に反応する免疫系の変化が起こり(「感作される」といいます)、薬疹が生じる場合はありますが、一番多いのは過去に飲んだことがある薬を、間を空けて再度服用した場合です。

 実は、たまに出るじんましんは、ウイルス感染(いわゆる風邪など)が原因であることが多いのです。ウイルス感染によって体の免疫機能が乱され、じんましんが出やすくなると考えられています。Eさんももしかしたら、風邪を引いたことでじんましんが出やすくなっていたのかも知れません。

 もし、「薬疹かも…」と不安になった時は、その薬を処方した医師を再受診しましょう。かかりつけ医に自分の情報を把握しておいてもらった方が安心です。

お薬手帳は世界でたった一つの“あなたの治療経歴書”

 お薬手帳についてこんな経験はありませんか?

  • 薬局でもらったシールを貼り忘れる、紛失する
  • シールは貼っているものの、時系列がめちゃくちゃ
  • 勤務先の近くのクリニック、かかりつけ医などお薬手帳を複数持っていて、それぞれを使い分けている

 私はEさんが持っていたお薬手帳を見せてもらうことで、薬疹かどうかについて判断することができました。手帳にこれまでの処方履歴が一括管理されていたことが役に立ったのです。受診する時間を作り、医療費を支払っているのに、渡された情報(シールや手帳)をいいかげんに扱うのは、もったいないことです。

 特に慢性疾患の治療をしている方は、初めてかかる医療機関でお薬手帳を医師に提示すれば、自分で多くを説明しなくとも医師は客観的に判断してくれます。お薬手帳はきちんと管理して、その情報を活用することがキモなのです。

 お薬手帳を上手に活用すると得られるメリットは他にもたくさんあります。

お薬手帳を使うメリット

  • 診療科をまたいだり、複数の医療機関にかかっている場合、飲み合わせや薬の重複をチェックできる。副作用や過量投与によるリスクを減らすことができる。
  • 自分が急に具合が悪くなったときにも、自分の代わりに自分の情報を伝えてくれる。
 

 例えば、整形外科で処方された血管拡張作用のある薬と、内科で処方される血圧を下げる薬、血栓を作りにくくする薬などを一緒に飲むと効果が強まってしまうことがありますが、患者さんは「整形外科」「内科」の薬はまったく別もの、と考えて服薬について告げてくれなかったり、薬の内容を把握できていないことがよくあります。

 また、「ちょっと前に扁桃炎になった」という患者さんに、「いつですか?」と言っても「えーっと、2~3カ月前かなぁ…」と記憶があやふやなときにも、お薬手帳があれば、あなたの代わりに必要な情報を伝えてくれるのです。

 お薬手帳を活用しましょうとお話しすると、「お薬のことは分からないから…」と敷居が高く感じられるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。もらったシールをその都度、忘れずに貼っていけばいいのです。さらに、次の診察までに起きた“気になる出来事”を、メモをしておくとよいでしょう。例えば、疑わしい発疹が出た場合には、処方された薬のシールの近くに「●月●日、かゆみはないが赤い発疹が出た」と書き加えてもらうと、とても診療の助けになります。

院内調剤の情報や健診データも入れると良い

お薬手帳の情報から薬の相互作用についても考えることができます。(©Somsak Sudthangtum-123rf)

 院外処方箋を発行せず、病院や診療所から直接お薬が出される「院内調剤」の場合は、「お薬手帳を見せてください」とはいわれないかも知れません。しかし、希望すれば用紙やシールをプリントしてくれるところもありますし、もし、プリントをもらえない場合は、薬と一緒にもらう「薬剤情報提供書」を貼り付けておく手もあります(手帳は分厚くなってしまいますが)。もちろん、手書きしても良いのですが、薬の名称や服用量などの転記ミスには注意してください。

 お薬手帳と同様に、職場で受ける健康診断の結果も一元化してファイルにしておくと非常に役立ちます。たとえば健診で「要再検」と指摘されて受診するときに、その検査値が書かれた用紙を持ってこない人も意外に多いもの。しかし、過去数年分の検査値をファイルしたものを見せてくれれば、いつごろから体に変化が起こっていたのか、症状の経過についても医師は把握することができ、的確な治療へと結びつくのです。

 あなたの大切な情報をしっかり役立てるために、ぜひお薬手帳や検査データを「一元化」してみましょう。

(まとめ:柳本 操=フリーライター)

橋口 玲子(はしぐち れいこ)
緑蔭診療所(神奈川県南足柄市)医師
橋口 玲子(はしぐち れいこ) 1954年、鹿児島市生まれ。東邦大学医学部を卒業。東邦大学医学部客員講師、および薬学部非常勤講師、国際協力事業団専門家を経て、1994年より現職。現代医学と漢方を併用した診療を行う。循環器専門医、小児科専門医、認定内科医、医学博士。成人および小児の心身症などのメンタルヘルス不調、高血圧、糖尿病などの生活習慣病やアレルギー疾患の診療のほか、ハーブ療法やアロマセラピーを用いたセルフケアに関する講演、執筆活動も行う。
(写真:室川イサオ)