健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

「おまえんとこのゴマ摺り課長な。さっきも部長に見え透いたお世辞言ってたぜ」
「仕様がないんだよ。あの課長、歯周病だから」
「どうして」
「歯の浮くようなことばかり言うんだ」
歯周病はみなさんよくご存知の病気。歯肉が腫れたり、出血したり、でも放っておく人が多いようです。「忙しいのにいちいち歯医者に行ってらんないよ」、分かります分かります。
だいいち歯医者くらい恐ろしい人はないですよ。人の口の中にドリルを突っ込むんだよ。手元が狂ったら俺の口の中はどうなるんだろう、っていつも恐怖におののいてます。だから歯医者さんが治療が終わって私から離れると、「ああ助かった」ってなもんですよ。
その入れ違いに来てくれるのが歯科衛生士さん。「では、歯垢をとりましょうね」なんて優しい声で言ってくれるとホッとする。しかも歯科衛生士さんて、来る人来る人みんな美人だよね。例外無くみんな美人。だって、全員マスクしてるもの。
歯医者が好きって人はあまりいないだろうけど、歯に無頓着な人もいたりするんですね。「飲んで疲れて帰ってバタンキュー、歯を磨かないで寝ちゃう時もあるんだよね」、分かります分かりま…ちょっと待って、いくらなんでもそれ、マズいんじゃないの。
1mgに10億個のバイ菌
歯周病の原因はなんと言っても、歯と歯肉の間(歯肉溝)のプラーク、つまり歯垢です。歯肉溝で細菌が繁殖することで歯周病は起きてきます。プラークは細菌にとってはパラダイスみたいなところ。温かいわ、食い物はあるわ、時にはビールも来ればスイーツも来る。1mgのプラーク中には、約10億個もの細菌がいるんですよ。
こんな状態で寝る前の歯磨きをパスしたら、バイ菌は増えるだけ増えて、もう想像するだけでも恐ろしい。そのうち歯肉溝にスペース(歯周ポケット)が出来て膿がたまるんですね。そうすると、歯がグラグラしてきて、ついに抜歯なんてことになる。これでハ(歯)ナシになったらハナシにならない。
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