健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。最終回です!

「おたくのお爺さん、今度コーラスのグループに入ったんですって?」
「そうなのよ。若い人と一緒に歌うのが楽しいって」
「若いわねえ」
「そうなのよ、お爺ちゃん、気ばかり若いのよ。いつもお風呂に入ると練習してるわよ」
「え、お風呂で練習?」
「だって、お爺ちゃんのパート、バスなのよ」
いつまでたっても気が若い人っていますよね。そんな人って、見た目も若かったりするものです。私、この前、運転免許証の更新に行ってきました。行くと写真を撮る部屋があって、次から次へと顔写真を撮っていきます。殺風景な椅子に座ると、向かい側にいる係員がモニターに映る顔を見ている。そして「カチャ、カチャ」とスイッチ(シャッターだよね)を押していくわけです。映ってる人の髪型も表情も着衣もお構いなし、顔の角度だけを確認しながら、追い立てるように「ハイ次、ハイ次…」。
みんな行列して順番を待つのですが、その列に並んでいると、モニターに映る他の人の顔が見えるんですよ。どう見てもその顔は指名手配犯にしか見えない。それを眺めながら、「ああ、俺の顔もここに映って、犯罪者のような写真に収まるのか」と、ぞっとしておりました。あの無理矢理な流れ作業って、どう見たって人権無視。となると、あれは憲法違反? ま、どうでもいいけどさ。
3年ぶりに撮った写真、古い免許証の写真と比べてみました。「おお、若くなってる」と感動。「ようし、これを家族に見せよう」と、帰ってさっそく家の者に見せると、「こっちの方が老けてるよねえ」と意見が一致。その老けている方の写真は、見事に今年の写真でした。3年前より若いというのは、私の勘違い、ひいき目、もっと言えば、妄想だったんですね。ちょっぴりショック。だけど、いいじゃん、いつまでも自分を若いと思って、ナニが悪いんだい!
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