日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

肉は食べても良いのか悪いのか

66はチェンジの歳

 立川らく朝

(イラスト:つぼいひろき)

「おや、お買い物ですか」

「いえ、がん検診に行くんです。私ね、半年に一度やってるんですよ」

「え、検診を半年に一度ですか、十分ですねえ」

そこに通りかかったのが、1台の自転車。

「だめですよお~、毎月やりましょう~」

「ええ、毎月? 凄い人がいるんだなあ。誰です、あの自転車の人」

「ああ、あの人ね、ガスの検針の人ですよ

 がんは日本人の死亡原因の第1位。誰しもがんは気になるものです。だからってね、回数多く検診すればイイってもんじゃないですよ。できてしまったがんを見つけることにやっきになるより、がんができないようにエネルギーを使う方がよほど健全というものです。

 がんの発症に食習慣が大きな影響を与えるということは、皆さんよくご存じです。バランスの良い食事など、食生活に気を遣う人も少なくありません。でもやっぱり程度ってものがありますよ。

 昔から1日30品目の食材を食べるとがん予防になると言われます。そりゃね、自分で色々食べるのは勝手ですが、これを奥さんに強要する人がいるんですね。

 「俺に長生きしてもらいたかったら、1日30品目使って、毎日料理を作りなさい」

 なんてね。そうしたら奥さん、毎日忠実に作ったんですって。それでもその旦那、本当に30品目あるかどうか、食事の度に数を数えたってんです。ま、こういうことする奴に限って早死にするんですけどね。ある日、23品目しかなかった。そうしたら怒ったんですね、旦那が。

 「なんだこれは、今日は23品目しかないじゃないか。30品目って言ってあるだろう。どうなってるんだ」

 そうしたら奥さんも負けちゃいません。

 「だいじょうぶよ、これで30になるわよ」

 って、七味唐辛子を出したってんですけど、世の中にはいろんなバトルがあるもんでございます。

どうすりゃいいのよ

 ここまで食事に気をつけることはないのですが、それでもやっぱり気になる情報はあるもので、昨年(2015年)1日50グラムの加工肉(ハムやソーセージ)を食べる人は大腸がんのリスクが高まると、かの有名なるWHO(世界保健機関)の専門組織、国際がん研究機関が言い出しました。さらに赤身肉も大腸がんの原因になるって言われだしたんですね。「赤身も黒だ」って、訳分かんない。

 そんな情報がいっぱいあるから、「やっぱり肉はいけないんだあ」とみんな思うようになったんですね。でもその一方で、歳を取ったらお肉を食べなさい、それが長生きの秘訣です、という話もあるから、「じゃあどうすりゃいいのよ」ってことになるわけですよ。

 「お肉好き」、って人は多いです。「やっぱり俺は肉だよ、肉」、そうですよねえ、暑い夏を乗り切るには肉ですよ。でもさ、なんとなく後ろめたい気持ちで食べてませんか。どうせ食べるなら、迷いなく、気持ちよく食べたいですよね。

 そこで、こんな悩める中高年に、明確な答えを出してくれた人達がいるのです。南カリフォルニア大学の研究チームが、動物性たんぱく質の摂取とがんの死亡リスクについて研究したんですね(*1)。ひょっとして彼らは、動物性たんぱく質なんか関係ないよという結果を出して、安心して思い切りステーキを頬張りたかったんじゃないかしら。ところがおっとどっこい、こんな結果になっちゃった。

 実は、動物性たんぱく質をいっぱい食べてる人たちは、摂取量が少ない人たちに比べて、がんの死亡リスクがなんと、4倍以上高かったのです(*2)。この結果を見た研究者、ガーンですよね。「せっかくお肉食べようと思ってたのに」ってね。ほらあ、あなたあ、がっかりしてんじゃないの。

*1 Levine ME, et al. Low protein intake is associated with a major reduction in IGF-1, cancer, and overall mortality in the 65 and younger but not older population. Cell Metabolism. 4 March 2014; 19(3): 407-417.
*2 摂取カロリーの20%以上をたんぱく質から摂っている人たちと、10%未満の人たちを比較した。

66で状況は一変

 でもこのデータに落ち込むどころか「よし、食うぞ」と、喜んでステーキを食べに行った人たちもいたのです。どんな人たちかというと、66歳以上の研究者。

 そのわけはですね、がんの死亡リスクが4倍以上というのは、50~65歳の人たちでのデータでして、66歳以上の人に限って見てみると、動物性たんぱく質をいっぱい食べてる人の方が、がんの死亡リスクは60%低かったんです。

 さて、「あなたは今、おいくつですか?」なあんてね、私、意地の悪い顔して聞いてますけど。ま、当初の予想通りと言いますか、比較的若い世代では、やっぱりお肉の食べ過ぎはいけないようなんです。でも66歳を界にして、状況は一変するわけですよ。

 「じゃあ早く歳をとりたい」、また極端なこと言って。大丈夫、食べ過ぎちゃダメよ、というだけで、食べちゃダメって話じゃないんですから。え、「俺は今年で66歳だ。これから安心して肉が食えるぞ」、って喜んでますねえ。なんです「ちょうど66で、ジャストミートだ」...それ意味が違うでしょ。

らく朝独演会のお知らせ
◆第44回「らく朝築地独演会」
2016年9月12日(月)19:00開演
築地本願寺ブディストホール(東京)

◆第1回「立川らく朝のごごらくご」
2016年10月10日(月・祝)14:00開演
紀尾井ホール(東京)

◆第45回「らく朝築地独演会」
2016年11月9日(水)19:00開演
築地本願寺ブディストホール(東京)

お申込みはオフィスらく朝(03-6661-8832)、詳細はHPで。

BS日テレ毎月曜日「Dr.らく朝笑いの診察室」放送中。
ラジオNIKKEI第3金曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)