健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

土用の丑の日、でっぷりと太った客が鰻屋で蒲焼を食べている。
その首筋に蚊がポイと止まって、血を吸い出した。
「う~ん脂がのってて美味しい血液、やっぱり土用の丑はスタミナ付けなくちゃ。あら、あなたどうしたの、なんで吸わないの」
「私、やめとくわ」
「どうしたの、食欲ないの」
「そうじゃないのよ。最近太っちゃったから、脂もの控えてるの」
日本の夏のスタミナ食といえば、江戸時代からやっぱり鰻。鰻のおよそ20%は脂肪、江戸時代に鰻ほど高脂肪な食材はめったになかったんですね。
ただ考えてみれば、「土用の丑は鰻を食べよう」なんて昔の話ですよ。江戸時代のように普段野菜ばかりの生活だったからこその土用の鰻。それが今やどうですか、毎日がスタミナメニューだもの。ハンバーグに焼き肉、餃子にレバニラ炒め、たまには豚トロ定食なんてものを食べたりして。挙げ句の果てに土用の丑だからって、これ以上脂ものを食べてどうすんのよ。
こんな昨今なんだから、「土用の丑はさっぱりしたものを食べる日」ってことに決めたら良い。なにも世の中に付き合うことないじゃないの、「土用の丑はソーメンを食べる日」にしてごらんなさいな、胃腸にだって懐にだって軽く済む。
特に最近は鰻が高騰して手が出なくなってきちゃった。大の鰻好きのお父さん、週末に家族で食事に出たけど鰻は予算オーバー、他人が食べてる鰻を窓越しに見ながらヨダレを垂らしてる。隣にいた奥さんが、「あんた、土曜の牛になってるよ」。
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