日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

握力が下がると死亡率が上がる

婚活には握力計

 立川らく朝

(イラスト:つぼいひろき)

「おまえ、ゴルフ部の先輩とマッチプレーやったんだって、どっちが勝ったんだよ」

「もち、現役の俺だよ。先輩はもう社会人だもんな。でも俺、最後のホール、ダブルボギーだったんだ」

「それでよく勝てたなあ。先輩はどうだったんだよ」

「OBだった」

 ゴルフはグリップが命だといわれます。私はゴルフはあまりやりませんが、握力があればいいってもんじゃないらしいんですね。手のひらがしっくりとクラブに収まるような握り方が大事なんですって。考えてみれば手のひらというのは、体と道具との接点なのですから、そりゃあ大事ですわなあ。

 手のひらが接点になるのは握手も同じ、人と人との接点ですよね。握手する時には、しっかり相手の手を握りしめるのが礼儀なんだそうです。

 先日落語会のあと、お客様へご挨拶をするため会場のロビーに出ました。すると向こうから、まるで相撲取りのような体格の男性が近づいてきます。しかも結構な勢いで、一直線にズンズンと。さすがにちょっとビビりますよ。思わず後ずさりすると、その相撲取りのような方、私の帯のあたりにぐっと手を付き出す。とたんに私、そうか前ミツを取りに来たな(そんなわけないだろ)。するとその方、「らく朝さん、握手してください」。なんのことはない、お客様から握手を求められたんですね。

 私、ニッコリ笑って手を出したのですが、その方の手の大きくて分厚いこと。しかも力があるんだ。両手で渾身の力で握り締められた。手が痛いのなんのって。そりゃね、渾身の力じゃなかったんだろうけど、手のひらの骨が折れるかと、マジで不安がよぎったんです。でも相手は落語会のお客様、私は笑顔で「有り難うございます」。顔で笑って心で泣いて、なんてもんじゃない。痛みをこらえながら、顔で笑って心で「ウ~~」と唸ってました。ものには限度ってものがあらあね。

婚活には握力計

 もっともね、握手はしっかりと強く握り合う、これが友好の証になるわけです。ビジネスでもそうです、弱々しく手を握るような相手をビジネスパートナーにしたいとは思わないでしょう。手に力が入ってないと、なんとなく頼りなげですもんね。でもね、健康に関しても似たようなことがあって、実は握力と健康って、とても強い関係があったんです。

 カナダのマクマスター大学がちょっと変わった調査をしました。35歳から70歳にいたるまで、世界17カ国の男女、約14万人の握力を測定したのです。そして、握力と死亡リスクに関係があるかどうかを調べたんですって。暇、といえば暇ですよ。だって握力と死亡リスクとの関係だなんて、これで何の結果も出なかったら、この人単なる暇人で終わるわけでしょ。でも、驚くべき成果があったのですよ。

 実は、握力が5kg低下すると、何らかの原因による死亡リスクが16%増加するという結果が得られたのです。もう少し詳しく調べてみると、心血管疾患(狭心症や心筋梗塞)のリスクは17%、心筋梗塞だけに限ると、リスクは7%、脳卒中(脳梗塞と脳出血)のリスクは9%増加したのだそうです(*1)。

 しっかり握手する人は、もしかしたら病気になりにくくて長生きする人なのかもしれないですね。女性のみなさん、旦那には長く稼いでもらわなくちゃならない。元気で長生き、これは良い旦那の条件。こうなると婚活の際には、握力計を持参した方が良いかもしれませんよ

ジャムの蓋が開かなくても

 実は日本でも同じような調査が行われています。厚生労働省は、福岡県の久山町で大規模な追跡調査をしていますが、やはり握力と死亡リスクについて調べています。その結果、もっとも握力の強いグループは、もっとも弱いグループに比べると、総死亡リスクが約半分に低下していたのです(*2)。

 でもどうして握力がないと死亡リスクが上がるんでしょうね。握力がなくて困るのは、せいぜい新しいジャムの蓋を開けるときくらい。さあ食べようって時にジャムの蓋が開かないと本当に頭にくるけど、でもねえ、だからといって死ぬほどイライラしないよね。

 これはですね、全身の筋肉と関係があるのではないかと推測されています。握力が全身の筋肉の状態を表す一つの指標になると考えられているんですね。運動習慣があり筋肉量がしっかりある人の方が元気で長生きする、というのは今や常識ですが、それと同じような意味で考えても良いのかもしれません。ということは、ただ単に握力だけを鍛えれば長生きできる、ってわけじゃないんですね。普段から運動して、全身の筋肉をバランス良く鍛えることが大事なんでしょうね。

 え、「普段そんなことやってらんない」って、そりゃまあそうでしょうけど、「でもゴルフで鍛えてる」。結構ですねえ、ゴルフも筋肉使うし、よく歩くことになるわけですから、え、そうじゃなくて、「やるときは必ず握ってる」…それゴルフで賭けをしてんでしょ。ちょっと、違うんじゃないの。

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立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)