健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

「先生、お腹が痛いんです、それに下痢もして」
「そうですか、じゃあ診察しますから」
患者が横になってお腹を出すと、それはそれは立派な三段腹。
さすがの医師も面喰らって、目の前の三段腹を眺めながら、
「あの、痛いのは、お腹のどのあたりですか」
「はい、二段目なんです」
暑くなると決まって増えてくるのが、腹痛に下痢。ひどい時には吐き気もあって、「そういえば夕べのあの刺身かなあ、やられたかなあ」なんてね、これ典型的な食中毒です。
何年か前、仕事である海辺の町に宿泊しました。せっかくだから今夜は美味しい海の幸をと、ホテルのフロントでお薦めの店を聞いたんですね。「この店なら絶対」という料理屋を教えてもらい、薦められるままにその店で食べたのですが、なるほどホテルが太鼓判を押すだけのことはあって大満足。帰りは店でタクシーを呼んでもらったのですが、さあタクシーに乗るなり運転手さんがちょっと声をひそめて、「お客さん、大丈夫でしたか」。
「え、大丈夫って何が」「いえ、大丈夫ならいいんですよ。気にしないでください」、これは気になります。気にするなってったって無理な話。「あの、どうしてですか」としつこく聞くと、「あの店ねえ、食中毒で営業停止を喰らってね、今日がオープン初日なんですよ。大丈夫ならいいんですけどね、気をつけてださいよ」。今更ナニに気をつけろって言うのよ。早く教えて、そういうことは。
それにしても薦めるホテルもホテルだよね。でも考えたらその店は、さあ客の信用を取り戻そうってんで、その日はすっごく頑張っていたに違いない。だから美味しかったのかも。だって本当に大満足だったんだもん。これをお読みの皆様、行くなら、“食中毒で営業停止の後のオープン初日”は狙い目ですぞ。お薦めです。でも私はやっぱりやめとくけど。
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