猛スピードのバスでどこへ行く
脂肪肝がなぜ怖いかというと、まったく症状がないので知らないうちに進行してしまうんですね。肝臓での炎症が進むと「慢性肝炎」という状態になって、肝細胞の破壊もかなり進んできます。ついには再生能力の強いさすがの肝臓も再生しきれなくなっちゃう。かといって壊れた状態を放っておくわけにもいかないから、突貫工事で間に合わせるんですね。肝細胞を作るかわりに、線維という固い組織に置き換えてしまうのです。
こうしてかなりの部分が線維組織になってしまうと、肝臓は縮んで固くなる。この状態が「肝硬変」なんです。これはもう元に戻らない上に、肝細胞がほとんどない状態だから、肝臓としての機能が果たせなくなってしまいます。最も嫌なのが、この肝硬変をベースに肝臓がんが発生してくるんですね。
つまり脂肪肝は、慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんという路線の始発駅というわけ。こんな路線の電車にだけは乗りたくないでしょ。でもね、この始発駅である「脂肪肝駅」行きのバスが出ていて、そのバスに乗ってる人が大勢いるんですよ。もしかしたらあなただって乗ってるかも。しかもこれ猛スピードで飛ばしてる。「このバスやけに飛ばすねえ」「だってこれ、都バスだもん」、なんて呑気なこと言ってる場合じゃない。そのバスの名前は、アルコールなんです。
ビヤホールで丼飯
お酒というのは、とってもカロリーの高い食品なのです。よくビールを大ジョッキで何杯もぐいぐいやってる人がいるけど、あれカロリーでみると、ほとんど丼飯をかきこんでいるのと同じ。その上つまみに荒挽きウインナや揚げ物でしょ、太らない方がおかしい。カロリーオーバーに加えて、アルコールは肝臓に中性脂肪を溜めこむ作用があるのです。これでダブルパンチ。だからお酒は、すっごく脂肪肝を作りやすいんです。
でもお酒を飲まない人でも脂肪肝になるんですね。やはり肝臓に炎症を起こして肝硬変や肝臓がんになるケースもあり、こういう脂肪肝のことを、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼んでいます。他にも糖尿病なども脂肪肝になりやすいといわれています。
何と言っても予防は節酒と減量。飲み過ぎるとろくな事はないですよ。アルコールが代謝されるとアセトアルデヒドが体内で増えて、二日酔い(宿酔い)の原因になることは有名です。宴会で吐くまで飲んだ人がいて、「いったい何杯飲んだんだ」と聞いたら、「ハック72杯」…汚い洒落だ。じつはこのアセトアルデヒド、肝臓の細胞を痛めつけて肝機能障害に拍車をかけるんです。
「脂肪肝が怖くて酒が飲めるかい」、気持ちは分かるんですけどね。二日酔いだって、やってみて初めて辛さがわかる。肝臓病だって同じですよ。辛い思いをする前に、無症状の脂肪肝のうちに後戻りした方がいいんじゃないの。お酒もスイーツもほどほどに。だって、どちらも一生付き合いたい仲間なんだもの。
第30回 2015年6月8日(月)19:00開演
第31回 2015年7月8日(水)19:00開演
申込みはオフィスらく朝(03-6661-8832)、詳細はHPで。
BS日テレ毎土曜日「Dr.らく朝笑いの診察室」放送中。
ラジオNIKKEI第3土曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
落語家(医学博士)

2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら。
(写真:増田伸也)