健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

「セールスマンってのもきつい仕事だよなあ。一日中売り歩いてんだぜ」
「おまえこの前、脂肪肝だから痩せろって言われたんだろ。丁度いいじゃんかよ」
「だけど足が棒のようだよ。公園に行ってサボってこよっと」
「仕事しろよ。サボってると、肝臓の脂肪だって減らないぞ」
「大丈夫だよ、アブラを売ってくるんだ」
健康診断でよく引っかかるものに脂肪肝があります。肝臓はもともと脂肪の蓄積場所。肝臓の30%以上の細胞に脂肪(中性脂肪)が蓄積している状態を脂肪肝というのですが、考えてみれば脂肪肝って肝臓の肥満なんですよね。実際に、太った人に脂肪肝は多いんです。
脂肪肝の脂肪はどこに溜まるかというと、肝臓の細胞の中。脂肪は細胞の中にちゃっかりと居候してるんですね。これがひどくなると、細胞内のほとんどのスペースが脂肪で占められてしまいます。ちょいと間借りさせてたつもりの居候に、いつの間にか家を乗っ取られてるわけ。そしてついには細胞が壊されてしまいます。「軒を貸して母屋を取られる」どころか、家ごと破壊されてしまうのですから恐ろしい居候ですよね。
細胞が壊れると細胞内のいろいろな物質がどっと流出して、血液の中をずっと流れることになります。こうして血中で増えてくる物質が、皆様ご存知の、AST(GOT)やALT (GPT)、γ-GTPなどという酵素です。採血をして、これらの肝臓固有の酵素の値が高いと肝機能障害という診断名が付くわけですが、その原因の多くは脂肪肝なんですね。
それにしても、採血の下手な医者ってすぐ分かる。注射器を持ったまま、ひとの血管を見ながら首をかしげるんだよね。そんな時ナニ考えてるかっていうと皆同じ、「入るかなあ~」。そのうちやおら針を刺そうとする。この時にどういう結論に至って針を刺そうとしてるかというと、これも同じで「ま、いっか」。中には「当たるも八卦」って、占いやってんじゃねえやい。
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