日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

ふて寝のススメ

仕事が上手くいかないと糖尿病になる

 立川らく朝

健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

(イラスト:つぼいひろき)

「おい、今日は一緒にヤケ酒だぞ」

「いいけどさ、俺、糖尿病だろ、血糖値が心配だなあ。せめて和食で飲もうぜ」

「じゃあ駅前の回転寿司にしようか」

「あそこは駄目だ」

「どうして、寿司屋なら和食だろうよ」

「いや、あそこの魚はほとんど、

ヨウショクなんだよ」

 ストレス解消に何をするか、人によって違いますよね。多いのが「とにかく飲む」という方と、「とにかく食べる」という方。だいたい飲む派と食べる派に分かれるんだそうです。どちらも肥満のもとですが、ストレスで心がボロボロになっている時に、お腹の脂肪のことなんか気にしてらんないですよ。

 え、私? 私はやっぱり飲む派ですね。ある日「もう誰とも会いたくない、喋りたくもない、一人でひたすら飲みたい」、そんな気分で飲み屋でヤケ酒を飲んでいたんですね。こんな私にだって辛い時はあるんです。すると、「あれ、らく朝さんじゃない」と元気に声をかけられました。偶然にも知り合いに会ってしまったのです。「え、うそ、こんな時に限ってなんで」と思ってもすでに手遅れ。相手は数人でニコニコしながら近づいてきて、「ねえねえ、みんなもこっちに来て一緒に飲もう」と勝手に友達を誘います。落ち込んでヤケ酒飲んでるその最中、ついに私は、陽気な飲み会の輪の中に無理矢理入れられてしまいました。

 私も落語家の端くれ、いつのまにかその場の盛り上げ役をしていました。頑張って冗談を言って笑わせて、その挙げ句に何て言われたと思います、「らく朝さんってホント、ストレスなくていいわねえ」。

 その帰り、もう一度飲み直す気力も何もなくなって、ただただストレスにまみれながら、フラフラと帰宅して「ふて寝」したのを覚えています。

ストレスは糖尿の始まり?

 ストレス解消に飲み食いする人が多いとなると、ストレスの多い人には糖尿病だって多いはず。ものすごく短絡的な考え方ですが、実際に調べてみたら、じつはストレスと糖尿病って、すっごく密接な関係にあることが分かったんです。

 ドイツはミュンヘン、ここのヘルムホルツセンターというところで調査をした結果なのですが、職場での仕事で強いプレッシャーを感じている人では、あまりプレッシャーを感じていない人に比べて、2型糖尿病(肥満によって発症する、最も多いタイプの糖尿病)の発症リスクが45%も高かったのだそうです(*1)。これは5000人以上の労働者を13年間にわたり追跡調査した結果ですから、かなり信憑性は高いですよね。

 一方こちらはカナダですが、オンタリオ州に住んでいる男性3691人と女性3752人(いずれも糖尿病でない人達です)を9年間にわたって追跡調査したというのですから、これも結構規模の大きな研究です。

 調査の期間中に男性の10.3%、女性の6.9%が糖尿病を発症しました。さあ、この人達を、仕事がうまくいっている人とそうでない人とで糖尿病の発症率を比べてみたんですね。どうなったと思いますか。もっとも仕事がうまくいっていない女性の場合、糖尿病を発症した割合が2倍以上に増えていたんですって(*2)。でも、男性では明らかな差はなかったそうです。もしかしたら、女性の方がストレスによる影響が強く出るのかもしれないですね。

お腹が空くと喧嘩が始まる

 これは女性に限らないのですが、ストレスによって様々なホルモンが過剰に分泌され、その結果血糖値を上げてしまうんですね。たとえばアドレナリン。これは副腎という臓器から分泌されるホルモンですが、ストレスを感じると分泌が高まり、血圧を上げたりすると同時に、血糖値も上昇させてしまいます。

 あ、そうそう、話は変わるけど、このアドレナリン、じつは空腹になると分泌されるんですよ。お腹が空いてりゃ血糖値だって下がってる。そうするとアドレナリンが分泌されて血糖値を高めようとするんですね。でもアドレナリンが増えると闘争的になるから喧嘩の原因にもなっちゃう。オフィスで喧嘩が起きるのは、一番お腹が空いているお昼ご飯の直前、こうやって真っ昼間に喧嘩を起こさせるような血糖値のことを、「真昼のケットウ」という。

*1 Huth C, et al. Job strain as a risk factor for the onset of type 2 diabetes mellitus: findings from the MONICA/KORA Augsburg cohort study. Psychosomatic Medicine. 2014;76(7):562-568.
*2 Smith PM, et al. The psychosocial work environment and incident diabetes in Ontario, Canada. Occupational Medicine. 2012;62(6):413-419.

 いずれにしても、ストレスを感じている時は血糖値が上がりやすい状態だというのは確かなようです。ということは、ストレス解消をするにしても、なるべく血糖値を上げない方法を工夫したいもの。そうねえ、ストレス解消にはカロリーを消費するスポーツが理想的ということになります。食べたり飲んだりしないで、汗をかく。すると血糖値も下がるというわけ。

 でもさ、ものぐさ族にはちょっとねえ。そこでもう一つ、ものぐさに有効な方法があります。それは「ふて寝」。ものぐさには「ふて寝」が一番。だって、ふて寝だったらヤケ酒、ヤケ食いと違って、どんなにやってもカロリーは摂らずにすむもんね。さ、今日もふて寝だ、ふて寝だ~。

らく朝築地独演会のお知らせ
築地本願寺ブディストホール(東京)
第29回 2015年5月11日(月)19:00開演
第30回 2015年6月8日(月)19:00開演
第31回 2015年7月8日(水)19:00開演
お申込みはオフィスらく朝(03-6661-8832)、詳細はHPで。

BS日テレ毎土曜日「Dr.らく朝笑いの診察室」放送中。
ラジオNIKKEI第3土曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)