健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

「あなたなら大丈夫、自信を持ちなさい」
「でも私、初めて手術するんですよ」
「手術なんか、私のようにすぐ慣れますよ。頑張りなさい」
「あら、看護師長さん、カーテンの向こうで、年配の先生が若い先生を励ましてるみたいですわね」
「え、そうじゃないわよ。手術を受ける患者さんが、執刀医を励ましてるのよ」
手術はやっぱり怖いですよね。でも大概は麻酔されていて、自分が直接見てるわけじゃないから、その最中に怖いと思うことはないかも。そこへいくと、採血は目の前で、ズバっと針を刺すのが見えるから、あれはあれで見るのが怖いものです。
採血も上手い人と下手な人とがいて、下手くそに当たったりしたらこれはもう災難です。下手な人って、針を手にして血管を眺めながらどうするかというと、とりあえず首をかしげるのです。針を持った人に、目の前で首をかしげられるくらい心細いことはないですよ。じゃあ、その医者は首をかしげながら何考えてるかっていうと、みんな同じ、「入るかなあ~」。
でもそのうち首をもとに戻すと、今度は針を刺そうとするんですね。この時、その人がどういう結論に至って針を刺そうとしているかも分かるんです。私だってさんざん採血してきたんですから。じゃあ、どういう結論に至ったかというと、これもまたみんな同じ、「ま、いっか」。
ま、いっかで針を刺されたら、たまったもんじゃないですよ。案の定、血管をはずすんですね。いくら注射器を引っ張ったって、血液なんか出てこないですよ。じゃあこういう時はどうすればいいかというと、まずは一旦針を抜いて、やり直すのが一番早いんです。車をガレージに入れるときだってそうでしょ。アプローチを失敗して、挙げ句にちょこちょこ切り返してるくらいなら、一旦出て、もう一度やり直した方がずっと早い。だから、車のチューシャも、採血のチューシャも、要は同じなんです。
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