日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

鼻かみながらヤケ酒なんて

花粉症を楽しく乗り切る

 立川らく朝

健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

(イラスト:つぼいひろき)

「先生、花粉症が酷くなりまして」

「あなた、いろんな花の花粉にアレルギーがありますなあ」

「今は、花のそばには近づかないようにしてるんです」

「あなたのように酷い方は、花だけじゃなくて、花を生ける器にも気をつけなさいよ」

「ええ、そんなものにもアレルギーが出るんですか」

「もちろんですよ。こういうのを、カビンショウというんです」

先生お大事に

 随分前のこと、伊勢市の病院に数カ月間赴任したことがあります。初めての病院でいきなり外来を引き継ぐということは、とても大変なことで、来る患者さん来る患者さん、全員が初めて会う人。でも「初めてだからよく分かりません」というわけにはいかないし、慣れない環境でそんな外来をこなすとなると、いやあ、相当ストレスのたまる仕事でした。

 ただ、自分ではさほどストレスだなんて感じてはいなかったのですが、時は3月、伊勢には伊勢神宮があって、うっそうとした杉林があります。(きっと)そこらじゅう杉の花粉だらけに違いない。私、軽いながらも花粉症があって、いざ外来が始まると「ハックション、グズグズ」と始まるのです。1人患者を診察する間に、3回も鼻をかまなければならないほど酷いものでした。

 そんな頃、外来で患者さんが帰り際、私に向かって「あの…」。私は何か言い忘れたことでもあるのかしらと思って、「はい、どうなさいました」と聞いたら、「先生、どうぞお大事に」だって。患者さんに言われたんじゃあ、世話ないよね。

 でも、外来が終わって「さあ、お昼ご飯だあ~」と思ったとたんに、グズグズはピタリと止まるんですよ。自分でも「ナンだこれは」と思うくらい見事に治る。やはり外来によるストレスが悪化要因であったことは明白なんですね。

 花粉症というのは、花粉が鼻粘膜に付着すると、その蛋白成分がアレルギーの原因(抗原)となって、それに対する抗体(IgE抗体)が作られます。この抗原と抗体がくっつくと、免疫に関係する細胞に影響を与えます。たとえば肥満細胞(メタボとは関係ないんですけど)という細胞を刺激すると、ヒスタミンなどの物質が放出されます。これがくしゃみや鼻水を引き起こすんですね。この一連の反応をアレルギー反応と呼んでいます。

 ただ、ストレスはアレルギーを悪化させるんですよ。2008年の調査では、日本人の29.8%が花粉症と言われています(*1)。その多くが杉花粉によるものなのですが、患者数は必ずしも杉花粉の飛散量とは相関しないんですね。というのは、花粉以外の悪化要因があるからなんです。それは、大気汚染、タバコ、過労、寝不足、飲み過ぎ、そして、ストレスです。だからストレスを溜めて、「ヤケ酒だあ」なんて遅くまで飲んで、寝不足して、朝ご飯も食べないで眠い目をこすって仕事してたら、そりゃあ花粉症にだってなりますよ。鼻かみながらヤケ酒を飲んでる姿なんて、あんまり見ててイイもんじゃないもんね。

薬剤師さん危機一髪

 ある薬局に強盗が入ったんですね。薬局って、けっこう無防備ですよ。女性の薬剤師さんが1人で店番、なんてこともあるし、レジもカウンターの脇に置いてあるでしょ。狙い易いんですよ、って私はやったことないけど。

 ある強盗、深めの帽子に大きなサングラス、これまた大きなマスクで完全に顔を隠し、薬局に入って来ました。間の悪いことに薬剤師さん、カウンターに背を向けて薬の整理をしてたんですね。強盗は易々とレジの前に行き、そしてドスの効いた声で「おい」と凄んだ。薬剤師さん、振り向いて強盗の姿を見たとたん、「あ、花粉症の方ですね。今、これが売れてるんですよ」と馴れた手つきで花粉症の薬を次々にカウンターに並べる。「お客様、どれがよろしいですか」とニッコリ笑うと、強盗は完全に毒気を抜かれ、仕方がなく花粉症の薬を買って帰ったんだそうな。

*1 馬場廣太郎、中江公裕:鼻アレルギーの全国疫学調査2008(1998年との比較)-耳鼻咽喉科医とその家族を対象にして-. Progress in Medicine.2008;28(8):145-156.

 花粉症は、花粉を遠ざけることが何よりの予防。だからといって強盗みたいな格好をしているわけにはいかないですよ。営業先に行ってマスクしてるわけにいかないし、ゴーグルしたままプレゼンする勇気はないでしょう。仕事をしているとね、テレビで推奨している花粉症対策なんか、おいそれとはできないのが現実です。

 じゃあ花粉症をピタリと治すにはどうすればいいかって、そんな良い方法があったら私が聞きたい。ただ、本当に今は様々な薬が開発されていて、花粉症を予防する薬も多いし、また最近では完治を目指す薬(舌下免疫療法)が認可されました。また、花粉の飛ばない杉の木の開発(こういうの作っていいのかどうか分かんないけど)も進んでいます。将来は今ほど花粉症に悩む人は少なくなるとは思うけど、そんなにのんびり待ってはいられないですよね。明日が心配だもの。

 やっぱり日常生活としては、体調管理に尽きるんじゃないでしょうか。さっきお話したように、飲み過ぎしないで、ちゃんと食べて、よく眠って、ストレスを避けて、楽しく仕事をする。これが一番の予防法のような気がします。

 あ、そうそう、仕事中毒もいけませんよね。あんまり仕事ばかりでもストレスが溜まりますもん。こういう人もアレルギーを起こすんですよ。え、何に対するアレルギーかって、仕事の「やりスギ」ですよ。なんでも、ほどほどがヨロシイようで。

らく朝築地独演会のお知らせ
築地本願寺ブディストホール(東京)
第28回 2015年4月13日(月)19:00開演
第29回 2015年5月11日(月)19:00開演
お申込みはオフィスらく朝(03-6661-8832)、詳細はHPで。

BS日テレ毎土曜日「Dr.らく朝笑いの診察室」放送中。
ラジオNIKKEI第3土曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)