日経グッデイ

立川らく朝の「わかっちゃいるけど…」

3日前のお昼ご飯

ずぼらでもできる惚け予防

 立川らく朝

健康に気をつけるべき、体に悪い習慣は改めるべき、とわかっていても、「そんなの無理だよ、できないよ」というのが、日々忙しく働く人たちのホンネ。落語家であり医学博士でもある立川らく朝さんが、現代社会に生きるビジネスパーソンへの共感を込めてつづる健康エッセイ。読んでほっこり癒されて!

(イラスト:つぼいひろき)

物忘れが治りますようにと神社にお参りをしたら、「ぼけ封じの御守」なるものを見つけた。

「これぞ神様のお導きだ。一つください」

「はい、どうぞ。これ、お釣りです」

「ありがとうございます。お釣りも忘れないようにしてと。さあ、これで絶対に俺の物忘れは治るぞ」

喜んで帰ろうとしたとたん、お巫女さんに呼び止められた。

「あ、お客様、今買ったお守り、忘れてますよ」

まるで御利益なかったりして。

 物忘れが多くなると、なにやら惚けの足音が後ろから近づいてくるようで気になるものです。「まずい、いよいよ来たか」なんて、ゾッとしたりして。でもね、誰でも年齢と共に認知機能は低下するものです。そりゃあ、だんだん物忘れだってするようになりますよ。でもどの程度だったら許容範囲なんでしょうか。

 ある銀行強盗が金庫の中で捕まってニュースになりました。職人気質の頑固じいさんの強盗で、指先1本で金庫をあけて入って来た。しかも銀行強盗としては最高齢記録だというんで、もう巷では賞賛の嵐、「凄い」ってなもんですよ。でもどうして金庫の中で捕まったかというと、自分がなぜ金庫の中に入ったのか、忘れちゃったんだそうです。

 こうなるとやっぱり認知症。単なる年齢からくる物忘れと認知症では、どこがどう違うのかというと、たとえば、3日前のお昼ご飯に何を食べたか、覚えてますか?「まずい、何を食べたか忘れちゃった」って、大丈夫なんですよ。お昼のおかずを覚えてないという程度なら、加齢による物忘れであって、特に異常ではないんです。でも認知症の場合は、お昼ご飯を食べたという経験そのものを忘れてしまうんですね。ま、お昼のおかずを忘れてしまったことを気にしていること自体、認知症ではない証拠なんですけどね。

 認知症ではまず記憶力が障害されることは皆さんよくご存じですが、脳の中で記憶を司っている部分は「海馬」という場所で、脳の中心部に位置しています。たとえば認知症の最大の原因疾患であるアルツハイマー病では、かなり初期の段階から海馬の萎縮がみられるんですね。海馬は新しく入ってきた情報(つまり記憶)をいったん蓄えて、そしてその情報を記憶の中枢である前頭葉に送る大切な役目を果たしています。ですから海馬の働きが悪くなり、記憶情報の出し入れがスムーズにできなくなると、「あれ、何だったかな」が始まるようになるわけです。

ずぼら人間の惚け予防

 さあ、何とかこの認知症、遠ざけたいじゃありませんか。昔から、運動することは惚け予防になるといわれています。それを裏付ける研究結果もたくさんあるんですが、皆さんの中には運動嫌いの人もけっこう多いですよね。「惚けたくないけど運動もヤダ」なんていうワガママな人、誰とは言いませんが、ちょっと耳寄りな話があるんですよ。

 運動嫌いな人に無理矢理に激しい運動させてもストレスの元になるもの。でもね、どんな運動嫌いでも、軽い運動ならストレス発散になるじゃないですか。これは筑波大学が東京大学の協力を得て調査した結果で、「米国アカデミー紀要(PNAS)」にも掲載されたのですが、ストレスを伴わない程度の軽い運動で、海馬の神経新生が高まることを発表したんです(*1)。記憶を司るとても大切な海馬の神経細胞が、ストレスを感じない程度のごく軽い運動で増えちゃうなんて、ずぼら人間には朗報じゃないですか。

 ただね、認知症というのは高齢になってから出てくるもの。だったら高齢者にとっても運動の効果がないとつまらない。歳取ったらもうお手上げ、っていうんじゃあまりにも愛想ないもんね。ところが、80歳以上になってもなお、運動には認知症予防の効果があるらしいんです。

 もっともね、高齢になるとそうそう運動はできないですよ。でも、ウォーキングくらいはできるし、日常の掃除や料理などの家事でもそこそこの運動にはなるわけです。じつはこの程度の運動量でも、アルツハイマー病の発症を予防できるらしいんですよ。

 これは、なんと平均年齢82歳の人たち716人を、3~4年間追跡調査して分かったのですが、毎日の運動量、というよりはこの場合、身体活動の量と言った方が適当だと思うけど、それを綿密に調べて活動量によってグループ分けするんですね。そうすると、活動量が下位10%のグループでは、上位10%のグループに比べて、アルツハイマー病を発症する割合が2.3倍多かったのだそうです。また、身体活動の強度で調べても、下位10%のグループでは上位10%のグループに比べ、アルツハイマー病の発症が2.8倍に上昇していたんですって(*2)。

 物忘れに怯えているより、いくつになっても楽しく汗を流す。やっぱりこれが一番でしょうね。それに惚け予防にはやっぱり頭を回転させたいもの。そうすると、頭と身体と両方使う趣味を持つのが理想的。私思うんですけど、ゴルフなんかいいですよ。ものぐさなあなたは、チンタラゴルフで十分。だってゴルフはクレバーなスポーツといわれて、頭と身体と両方使うんです。とくにプロはそうですね。プロの試合はバカじゃ勝てないんですよ。だって、プロの試合は、パーじゃ勝てない…あれ、ちょっと意味が違うかな。

*1 Okamoto M, et al. Mild exercise increases dihydrotestosterone in hippocampus providing evidence for androgenic mediation of neurogenesis. PNAS 2012 109 (32) 13100-13105; published ahead of print July 17, 2012. 筑波大学によるリリースはこちら
*2 Buchman AS, et al. Total daily physical activity and the risk of AD and cognitive decline in older adults. Neurology. 2012;78(17):1323-9.
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ラジオNIKKEI第3土曜日「大人のラヂオ」パーソナリティ。
立川らく朝(たてかわ らくちょう)
落語家(医学博士)
立川らく朝(たてかわ らくちょう) 1954年1月26日、長野県に生まれる。1979年、杏林大学医学部卒業。慶応義塾大学医学部内科学教室へ入局。主として脂質異常症の臨床と研究に従事。慶応健康相談センター(人間ドック)医長を勤める。
2000年、46歳にして立川志らく門下に入門、プロの落語家として再出発する。
2004年、立川流家元、立川談志に認められ二つ目昇進。医学博士でもある立場を生かし、健康教育と落語をミックスした「ヘルシートーク」、「健康落語」、「落語&一人芝居」という新ジャンルを開拓。マスコミなどで評判となり全国での公演に飛び回る毎日。また「健康情報を笑いを交えて提供する」というコンセプトで全く新しい講演会を精力的に開催。2015年10月1日付で真打昇進。笑いと健康学会理事。日本ペンクラブ会員。公式HPはこちら
(写真:増田伸也)
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