その言葉は、ある日不意に言い渡される―「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が綴る、現代人に贈る生き方の道しるべ。
北斗晶さんを襲った「乳がん」をどう受け止める?
タレントの北斗晶さんが、乳がんを発症していたことをメディアで告白して、大きなニュースとして連日取り上げられました。乳がん検診を毎年受検しており、前年には異常がなかったといい、その後に違和感を覚えて再び検査を受けたところ、がんが見つかったということでした。
自分で異変に気が付いたのは、異常なしと判定されてからおよそ半年後。がんはすでに2センチの大きさで、リンパへの転移も分かり、右乳房をすべて摘出する手術となりました。
「毎年検診を受けていたのに、どうして発見できなかったのか」と、一連のニュースを見て、ショックを受けた人も多かったのではないでしょうか。
この連載でも、がんに対する最善策は「早期の発見」であると繰り返してきました。そうだとするならば、今回の北斗さんのようなケースは、どのように受け止めればいいのでしょうか。

シリーズでご紹介している『現実的な「がん検診」の選び方』の3回目は、「乳がん」「子宮がん」「卵巣がん」といった、女性特有のがんの対策について取り上げたいと思います。
もしも、男性の読者であるならば、ご自身のパートナーに起こり得ることとして、ぜひ知っておいてもらえれば幸いです。
そもそもがんの多くは、統計学的には50代以降から発症リスクが高まることが知られています。ややもすると、がんは高齢になってから発症すると思われがちですが、乳がん、子宮がんに関しては、30代、40代といった若い人でも発症するリスクのある「年齢が関係ないがん」だとも言えるでしょう。また、患者の“若年化”には、医療技術の進歩に伴う発見率の向上も影響しています。
「検査時にはなかった」「見落とされた」、どちらも考えられる
北斗さんのケースを見た場合、多くの人が気にしているのは恐らく、「前年の検査のときにはがんは本当になかったのか」、もしくは「検診のときに見落とされていたのではないか」ということではないでしょうか。
がんの専門医として、私の経験から推測すると、その答えは「どちらの可能性もある」です。
がん細胞が見つかったところが、乳頭の直下という、一般的な検診で採用されている乳房X線検査(マンモグラフィ)ではとても見つけにくい部位にあったことを考慮すると、初期のがんを見つけられなかった可能性はあります。
しかし一方では、検診のときには、マンモグラフィで発見可能ながんはなく、その後に発症して急速に進行した可能性も捨てきれない。わずか半年の間に、病状が進むようなケースは、とても稀だとしても、ないわけではありません。がんは発症の仕組みも、その後の進行も「百人百様」であることから、先の疑問に関する可能性はどちらも否定できないのです。
「それならばがん検診を受ける意味はない」といった意見を持ったり、考えに至ったりするのは、個人的には少々安易に過ぎると感じます。難しい部位のがんであっても初期に発見されることももちろんありますし、すべてのがんが、急速に進行するわけではありません。だからこそ、定期的にがん検診を受けるべきというのが私の考えでもあります(参照記事:『がん検診で「異常なし」の落とし穴 』)。