その言葉は、ある日不意に言い渡される―「がん」。耳にした瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、自分の「命」を改めて認識するようになるという。今や日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。人生、家族、仕事…。がんをきっかけに診療室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が語る、現代人に伝えたい生き方の道しるべ。
がんはもはや「国民病」という認識を持つことの大切さ
「恐らく、がんの疑いがあります。念のため、詳しい検査をしてみましょう」
がんをいち早く見つけることが放射線科医としての私の生業とはいえ、患者に検診結果を伝えるときはやはり緊張するものです。そして、その結果が重篤であるほどいつもこう思います。
「せめてあと数年、いや1年早く、がん検診を受けていてくれたら…」と。
現代社会における死亡原因の第1位であるがん。厚生労働省が発表する『我が国の人口動態』(平成26年)によれば、2012年における日本国民の死亡者数は125万6359人。そのうち28.7%(36万963人)が「悪性新生物」、つまり「がん」で亡くなっています。私がかつて勤めていた国立がんセンターの「がん対策情報センター」の推計では、現在、日本国民のおよそ2人に1人が一生のうちに“何らかのがん”にかかり、結果的に3人に1人はがんで死ぬ時代になりました。
日本人が生涯でがんに罹患(りかん)するリスクは50%。これはもはや“国民病”といっても過言ではないほどの高い数字です。これを「高い」と感じるか、「低い」と感じるかは個々人に委ねるとして、長らくがん治療に携わってきた私の立場から言えば、もはや、「人はがんになるもの」との心構えを持って生きる方が賢明なのでしょう。
もちろん、読者のみなさんの不安をいたずらにあおるつもりはありません。ですがこの先、がんの正しい知識と心構えを備えていくかどうかで、いざというときの対策や対処の選択肢が増やせると私は考えます。手術や治療、闘病といったがんと向き合う決断はいうに及ばず、みなさんにとって大切な「仕事」や「家族」、そして「経済的」な問題にも速やかに対応できるからです。