その言葉は、ある日不意に言い渡される―「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が綴る、現代人に贈る生き方の道しるべ。
「ランキング本」を手にセカンドオピニオンを求める患者
「最初にかかった病院でがんと診断されたのですが、こちらの病院の方が有名なので」
かつて国立がん研究センターに私が勤務していた間、こうした理由で患者がひっきりなしに訪れてきました。そのほとんどがセカンドオピニオンを求めて来院しているのですが、面白いことに、必ずといっていいほど「病院ランキング」や「病院実力比較」といった類いの記事を手にしています。なかには、「この記事の中からだと、どこがお薦めでしょうか?」といった意見を求められることすらありました。
自分の身の委ね先を選ぶ指標として、各メディアから発表されている「病院ランキング」などを頼りたくなるのは、無理からぬことでしょう。どんな人でも、自分ががんだと分かれば、「最新の治療を受けたい」「有名な先生に執刀してもらいたい」という思いに駆られるもの。最初にがんの診断を受けた病院が、たとえランキングで2位になっていたとしても、「1位の病院だったらもっと…」といった気持ちにもなるのもよくわかります。
「今の病院で治療を受ければ大丈夫ですよ」
ランキングの基準については、特段おかしいと感じるものはなく、「歴史がある」「規模が大きい」「専門医の数が多い」「症例数が多い」「最新の医療設備が整っている」といった病院が上位を占めている傾向があります。しかし、医者である私から見れば、1位も5位も10位も…、医療の設備や受けられる医療に大きな違いはありません。特に「早期がん」についてであれば、極端な話、「どの病院を選んでも、専門を標ぼうしていれば、ほとんど変わらない」と私は考えています。セカンドオピニオンを目的に訪れた早期がんの患者に対しては、そのほとんどに「今かかっている病院で治療を受ければ大丈夫ですよ」とお伝えしていました。