その言葉は、ある日不意に言い渡される―「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が綴る、現代人に贈る生き方の道しるべ。
自分はがんを免れられても、身内が同じだとは限らない
もしも、自分ががんになってしまったら、いったい何が起こるのか、どんな気持ちになるのか、何をしなくてはならないか―。この連載では、できるだけ詳しくお伝えしてきました。「2人に1人ががんになる時代」に生きる私たちは、その現実から目を背けられないことも、だんだんと分かってきたのではないでしょうか。
あなたががんを免れたとしたら、それはそれで幸いなことです。しかし、がんの罹患率を統計だけでみれば、あなたは大丈夫だったとしても、あなたにとって大切な誰か、例えばパートナーががんにならない保証はどこにもありません。
そこで今回は少し趣向を変えて、「もしもパートナーががんにかかってしまったら…」というケースについてお伝えしたいと思います。
ある50代の男性のケースです。検診の結果、胃がんであることが判明し、それを告知する日には奥さんを伴って診察室にやってきました。結果を示しながら、「胃がんです」と口にしたとたん、
「あれほど検診を受けてと昔から言ってきたじゃない! 私のことを無視するからこうなるのよ!!」
と、奥さんが大声を上げました。
「なんだと? そんなことを言うけど、お前だって…」と、言い返すご主人。こうしてだんだんと2人で声を荒げ始め出すと、とうとう夫婦ゲンカが始まってしまいました。