その言葉は、ある日不意に言い渡される――「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が綴る、現代人に贈る生き方の道しるべ。
がんはアクシデントの一つ
1年以上に渡って続けてきたこの連載も、今回が最終回となりました。そこで、「がん」という病気をどう捉え、どうつきあっていくかについて、私なりの考えをもう1度まとめ、締めくくりとしたいと思います。
人間というものは、年老いてやがて死んでいく運命にあります。間違っても250歳まで生きることはなく、寿命が来れば死ぬ。これが人間なのですね。
その一方で、今や、国民の2人に1人が一生のうちに何らかのがんにかかる時代です。50%という罹患リスクを、高いと思うか、低いと思うかはともかくとして、「人はがんになる生き物である」とも言えるのです。
では、「がんで死ぬこと」と「寿命で死ぬこと」の決定的な違いは何か。言うまでもなく、がんは予防できますが、時間は止められません。寿命がくることは避けられませんが、がんは避けようとすれば避けられる可能性があるというわけです。しかし、残念ながら避けきれない。
つまり、がんは交通事故と同様、人生におけるアクシデントの一つと考えればよいのです。普通に生活していれば、事故に遭うリスクはつねにつきまとう。でも、スピードを出さず、よそ見をせず、注意深く運転すれば、事故を起こす確率はかなり低くなります。
まずは「生活習慣の見直し」から着手する
では、がんというアクシデントにできるだけ遭わないようにするためにはどうしたらいいか。
この連載でも繰り返し話してきましたが、何よりも大切なことは生活習慣の見直しです。
ここで気をつけるべきことは、「タバコを吸わない」「お酒を飲み過ぎない」といった明らかに人体に良くないといわれている生活習慣だけではありません。たとえば、梅干しの名産地に住んでいれば、その地域全体が塩分を取り過ぎる傾向にあります。家族の毎日の食生活に偏りがある場合もある。このような習慣は、その地域や家族にとっては当たり前のことなので、盲点となっていることが多いのです。そういったことも含めて“広い意味での生活習慣”を見直しましょう。
加えて、適度な運動をすること、細菌やウイルスなどの感染症の予防に努めることも大切です。