その言葉は、ある日不意に言い渡される――「がん」。次の瞬間、多くの人は「死」を初めて実感し、我が人生を改めて振り返る。今は日本人のおよそ半分が、なんらかのがんにかかる時代。がんをきっかけに診察室で繰り広げられる人間模様とともに、がん治療の最前線を歩み続ける医師が綴る、現代人に贈る生き方の道しるべ。
がんを過度に心配する必要はありません
がんは治せる病気です――と、この連載でも幾度となくお伝えしてきました。今では、がんを「治せるかどうか」ではなく、「いかに負担なく患者さんを治すか」つまり「治し方」が問われる時代になってきました。
私が大学を卒業して医師人生をスタートさせた1970年代前半は、手術でがん細胞を切り取ること以外に効果的な治療法はほとんどありませんでした。抗がん剤は副作用ばかりが強くて効き目は頼りなかった。白血病にいたっては、かかってしまったら最後、直すことはできずにあきらめるより仕方ありませんでした。今でも当時の、悔しい思いは忘れられません。
しかし、今は違います。治療技術はその後、目覚ましい進歩を遂げました。できた場所によるとはいえ、今やがんは早期発見・早期治療すれば、5年以上生存するのは当たり前の病気になっています。過度に心配する必要はありません。それにもかかわらず、いまだに昔の悪いイメージを持ち続けている人が多いように思います。
そこで今回は、近年進歩の著しいがん治療の「今」についてお伝えしたいと思います。現状を正しく知り、過度に深刻に考えず、前向きに治療に取り組んでいただければ幸いです。今回取り上げる治療法は、数十年後に実現しそうだという未来の技術ではありません。今、がんになったら、選択肢として挙がってくる治療法です。しかし、一般の患者にとっては聞き慣れない名前も多く、診察室で医師に「どちらの治療法にしますか」などと問われると、面くらってしまう人も少なくありません。
早期なら内視鏡で入院すら不要のケースも
がんになってしまった患者さんに示される治療法は、主に「手術療法」「放射線療法」「化学療法」の3つです。これをがんの三大療法と言っています。どの療法においても技術は着々と進歩しています。
早期がんや、多少進行していても切除可能な状態のがんであれば、まず採用されるのが手術療法です。体にメスを入れるため、どうしても治るまでには時間がかかり、切除した部分によっては、体の機能の一部が失われることもあります。がん手術というと、「長期入院はやむなし」――そう思っている人も少なくないでしょう。
こうしたデメリットを小さくするのが、口や肛門からファイバースコープというカメラ付きの管を入れ、内部からがんを切除する内視鏡治療です。