テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。50代で人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。何事も前向きに生きれば、日々是好転! 年末報道特番の取材のため、熊本城を訪れた石原さん。遠目に見ると大きな被害はないように思える熊本城も、近くまで進んでいくと、その惨状に驚かされます。そんな状況の中でも、地元の人は、静かに力強く前を向いて進み始めていました。
震災から8カ月を経った今も、建物の解体は毎日続けられている
熊本城を訪ねたのは、年末報道特番でのこと。
僕は熊本城が大好きだ。日本三大名城に数えられる熊本城の威容は、城好きの僕ならずとも、訪れた人、誰をも魅了する。熊本の街に暮らす人も、何かの折に城を見上げては、安堵したり勇気づけられたりしているに違いない。城は街のシンボルであり、心の寄り処となる。僕は城下町を訪れると、その街の人を心底、羨ましく思う。
城を訪ねる前に、まず、今年4月の熊本地震で最も被害を受けた、隣の益城町に向かう。熊本駅でタクシーに乗り込み、技術スタッフとの待ち合わせ場所である益城の公民館を告げると、「取材ですよね」とドライバーに念を押された。聞けば、被災地を観光目的で訪れる輩が後を絶たないのだそうだ。「そんな客はきっぱりと断る」とドライバーは苦笑いしていたが、被災地の現実を忘れないことと、物見遊山を混同してはならない。今一度、気持ちを引き締めて町へ向かった。
熊本市電の終点、健軍町停留所を超えたあたりから、屋根を青いビニールシートで養生された家が目につくようになる。道路にもヒビ割れを修復したアスファルトの簡易舗装が見られる。
ニュース映像で見覚えのある通りをカメラと共に歩く。震度7の激震で全家屋が被災したこの街は、半分が更地となっていた。静寂の街ではどこからか、パワーショベルの作業音だけが聞こえる。復興作業の第一歩、建物の解体は震災から8カ月を経った今も、毎日毎日、続けられている。それでも、半数の建物は4月の地震直後のまま、瓦礫(がれき)の山となって残っていた。
傾いた電柱脇の土壁の古い家屋は、一階部分がペシャンコに潰れている。比較的新しい家は潰れはしなかったものの、家自体が大きく割れて、アコーディオンのように波打っている。
材木と土壁が折り重なり、ミルフィーユのような瓦礫の中には、茶碗やら皿やら、地震のその日まで使われていた日用品が埋もれている。形をとどめている家の窓の中には、カーテン越しに倒れたタンスや天井から斜めにぶら下がる電燈が見える。地震で大きく姿を変えてしまった街は、その時以来、時間が止まったままなのだ。