因縁の大会を「サブ4」でクリア!
そんな自信を胸に臨んだのが三週間後の『富山マラソン』。去年は腹痛で途中棄権した因縁の大会だ。
「良純、今年はガンバレ!」「今年は頑張ってますね」と沿道から声援を受ける。「今年は」はいらない。「今年も、しくじったら」と余計にプレッシャーがかかるではないか。レース前半は、笑顔で小さく片手を挙げて声援に応える。苦しくて当たり前のマラソンで、「何を言ってやがる」とか負のエネルギーはいらない。ランナーと沿道の観衆が正と正のエネルギーをぶつけ合ってこそ、42.195キロが克服できる。
『富山マラソン』最大の見どころであり、最大の難所となるのが高低差60メートルの新湊大橋。2キロの上りと2キロの下りがランナーの走力を確実に奪う。
新湊大橋を下り終えても、まだ28キロ地点。ここからがマラソンの真骨頂だ。脚が痛くて思うほど上がらない。背後からは4時間ゴールの緑の風船を帽子につけたオフィシャル・ランナーが迫ってくる。脚が上がらずストライドが伸びないのならば、細かくピッチを上げて速度を維持すればいい。どんどん息が苦しくなってくる。もはや沿道の声援に手を上げる余裕はない。僕は小さく目の玉だけを動かして挨拶する。沿道の皆さんに僕の感謝の気持ち、伝わっていただろうか。
レースの結果は、3時間56分11秒。自己ベストには49秒及ばなかったが、6月の惨敗した『函館マラソン』の仇は取れた、と僕は満足している。
今回は、いつも沿道からもらっているエネルギーを返す番
11月の『福岡マラソン』は、KBC(九州朝日放送)特別番組のゲスト・サポーターとして参加した。踊る阿呆に観る阿呆……とは言ったもの。やっぱりマラソンの主役はランナー一人ひとりだ。スタジオでジッと中継画像を観ているだけではつまらない。途中からスタジオを飛び出して、コースへ応援に出かけることにした。
スタートから3時間を超え、30キロ地点を間近にするランナーの足取りはどれも重い。頭では走ろうとしても、体は走らない。皆さん、ただ黙々と一歩一歩、歩みを進める。
ならば今回ばかりは、僕が精一杯の応援をして、いつもは僕が沿道からもらっているエネルギーをランナーに与える番だ。「頑張れ」と大声で声をかけ、一人ひとりをハイタッチで送り出す。「あっ、良純さん」と僕に気がついて、ほんの一時でも足の痛みを忘れるだけでも、僕は役に立ったというものだ。
マラソンは、ひとりで走っているようで、ひとりで走っているわけではないのです。
俳優・気象予報士
