「自然VS.人間」の中で科学する気持ちを忘れずに
僕らが最先端医療と聞いて、まず思い浮かべるのは再生医療だろうか。山中伸弥教授がiPS細胞でノーベル賞を受賞する以前から、“アカデミ・ヨシズミ”では再生医療に注目していた。人工培養された心臓の筋膜は、まるで帆立貝の貝柱のようだった。その貝柱がシャーレの上でプルプル震え続けるのにぶったまげた。
先般の放送では、“心房細動”を取り上げた。
心房細動は、運動や緊張とかとは関係なく、ドキドキと異常に早く心臓が動く症状。心臓の動きが不規則になると、心臓内に血液が長くとどまり、やがて血の塊ができる。その血栓が脳に行きつき血管を詰まらせ“脳梗塞”を引き起こす恐ろしい病気だ。
最近の研究で左側の心房の肺静脈の付け根からの異常な電気が、心房細動を起こしていることが分かってきた。ならば、その部分の筋肉を切除すればいい。手術は磁気立体マッピング装置とレントゲン装置を兼ねそなえ、患者の体の内をのぞきながら手術できるハイブリッド手術室で行われる。手術法も、開胸することなくカテーテル手術。
「メス」…、
「鉗子(かんし)」…、
僕がナースのお仕事でやっていた手術用具を一つひとつ助手から手渡される手術光景は、過去のものになりつつあるようだ。
実はこの“心房細動”のVTRは、御嶽山の噴火、台風、2人の大臣の辞任で放送が3回延期になった。小渕さんの件はともかく、最近のニュースでは、エボラ出血熱をはじめ、「自然VS.人間」という構図が多くなっているような気がしてならない。決して人間は、自然に勝てようはずもない。それでも人間が上手く自然と共存していくためには、人間は科学の力を磨いていかねばならないのではないか。
二十一世紀に生きる僕らは、科学する気持ちを忘れずにいよう。
俳優・気象予報士
