テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。50代で人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。前向きに生きれば、日々是好転! 今年の夏は台風が多く上陸しました。台風21号が関西を襲ったあの日の昼、石原さんは新幹線で新大阪を出発、東京を目指しました。石原さんを乗せた新幹線の運命やいかに。
“移動のプロ”の経験では、ぎりぎりセーフのはずだったが…
9月4日午前11時45分、“のぞみ16号”は定刻より5分遅れで新大阪駅を出発した。動き出した列車の中で僕はホッと胸をなで降ろした。

折しも台風21号が、過去、日本上陸時の最大級の勢力を維持したままスピードを上げ関西地方へ接近していた。午前11時に関西テレビで『よ~いドン!』の生放送を終えた僕は、夕方からの東京での番組収録を控え一目散で駅に駆けつけたのだ。
前日に気象庁が生命の危機を訴える異例の会見で台風情報を伝えたこともあり、4日の大阪の街は朝から休日のように人も車もまばらだった。交通機関も、早目早目の対策を講じていた。
朝から間引き運転をしていた京阪神の在来線は、この時間にはほぼ全面運休。私鉄各線も風雨が強まるにつれ運転を打ち切り出した。いよいよ暴風雨圏内に入り、新幹線も止まろうかというぎりぎりのタイミングで僕は列車に飛び乗ったのだ。
年間200フライト、100新幹線の実績を誇る移動のプロの僕の経験からして、台風や大雨、大風、雪などの気象現象によって飛行機や列車が止まるのは1年9カ月に一回程度。次の仕事に間に合わないことが1年半に一回は起きないが、2年に一回は起こる。
今年の夏は、台風12号の上陸によって8月8日夜の福岡行きのフライトがキャンセルになった。おかげで9日早朝の九州朝日放送の『アサデス。』の生放送には出演できなかった。僕の経験則から言えば、次に足止めを喰らうのは1年半も先のこと。ひと月も経たぬうちに、また台風で身動きできなくなることはないだろうと、高をくくっていた。
それでも、テレビで危機管理の重要性を力説する僕は、車内に閉じ込められる場合も想定して、DVDプレイヤーに映画2本と自分の出演番組2本。テレビ局の楽屋にあったお菓子とペットボトルの水を持参した。

山陽新幹線は朝から全面運休。だから僕の乗る“のぞみ16号”は、博多からの直通運転ではなく新大阪が始発。その上、米原、岐阜羽島間で風速が安全運転の基準値を上廻り、出発時刻も遅れたから、ちょっと不安な出発となった。それでも順調な走りで京都駅をすんなり出発した頃には、まさか自分がいつかテレビニュースで見た、新幹線の缶詰乗客になろうとは思ってもみなかった。
僕の乗った列車は瀬田川を渡り、琵琶湖を眺めるようになった辺りで、不吉な徐行運転をはじめた。窓の外の景色は雨は弱いものの、明らかに風が強まっている。小山の木々も田んぼの稲穂も、大きく頭を揺らしている。台風の暴風域に入るのは時間の問題。一刻も早く東へ下らねば、事態がより一層悪化するのは間違いない。ようやくスピードを上げはじめた列車に、僕は再び胸をなで下ろした。
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- 米原駅で6時間も映画鑑賞に勤しむことに