テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。何事も前向きに生きれば、日々是好転! 仕事の合間に、北海道のローカル線に乗った良純さん。さわやかな青空の下、アイヌ民族ゆかりの景勝地から、映画の舞台となった駅、地元の酒と肴まで、様々な角度で北海道を満喫し、身も心もリフレッシュしたようです。

ガタン、ゴトン、ガタンと小気味良いリズムを奏でながら1両編成のディーゼルカーは、北の大地を疾走する。冷房のない車両の窓は大きく開け放たれ、天井では懐かしい扇風機が慌ただしく360度、首を振り続けている。髪の乱れを気にしなければ、乾いた風は十二分に心地良い。
窓の外には遠くの山影まで、ずっと緑の田畑が続いている。時折、目の前に広がる白い花のカーペットは、そば畑のようだ。改めて、北海道は日本有数のそばの産地であることに思い当たった。

緑の田んぼの上には青い空。湿度が低いから北海道の夏空は、本州のそれよりも格段に青い。青い空には、ほど良い間隔で白い羊雲が並んでいた。
僕が真夏の列車旅を満喫したのは、北海道の留萌(るもい)本線。北海道の中央に位置する旭川。その西隣の深川から日本海に面した港町、留萌を繋いでいる。往時は石炭や海産物の輸送に賑わった鉄路も、今や産業の衰退と自動車輸送に取って代わられ、その存在すら危ぶまれている。
実際、この夏の新聞紙面には、来春3月からの段階的な路線廃止が提案された旨の記事が載っていた。地元住民よりも鉄道ファンの乗客が多いとさえ囁かれている留萌本線が、この夏一際、脚光を浴びることは間違いない。僕は図らずも、先んじて鉄道ファン垂涎の本線の旅を楽しんだワケだ。
“時刻表鉄”の矜持をかけて見つけた景勝地は?
僕が留萌本線に乗ることになったのは、この日、留萌の隣町である増毛(ましけ)町で講演会を依頼されていたからだ。夜の講演までの時間に、夏の北海道を楽しんでやろうと朝一の便で旭川へ飛んだ。空港からレンタカーで深川駅へ移動する。その後は車をマネジャーに任せて、僕は一人列車に乗り込むことにした。
目指すは11時10分、留萌行き普通列車。乗り遅れてしまうと次の列車まで2時間待ちになる。1日7往復しかない列車の出発時間をちゃんと調べて駅に向かうのは、鉄道ファンの中でも時刻表を愛する“時刻表鉄”の僕にとっては当たり前のことだ。
旭川空港から真っ直ぐ深川駅へ向かっては、いささか時間が余る。そこで鉄道好きの僕ならではの大好物をまたまた発見した。時刻表鉄は、有能なツアーコンダクターでもあるのだ。
上川盆地から石狩平野に続く境辺りにある神居古潭(かむいこたん)は、石狩川がグッと狭まって渓谷となる景勝地だ。
神居(かむい)はアイヌ語で神。古譚(こたん)は里を表す。古来、この地は神の住む場所、アイヌ民族の聖地とされてきた。移動を舟に頼っていたアイヌ民族にとってこの地の激流は難所であり、多くの命が奪われた。アイヌの人にとって魔神の住む地として恐れられていたのだという。
今はその急流を木製の吊り橋の上から眺めることができる。前日の雨で水かさを増した茶色い濁流が音を立てて流れていた。切り立った岩肌と深い所では水深が70mもあるという渓谷は、アイヌの人々が神が住むと恐れていたことにもうなずける。

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