日経グッデイ

石原良純の「日々是好転!ときどきカラダ予報」

石原良純流・新ストレス解消法は、酒の勢いで「お宝ゲット」!

第10回 鉄道マニアの性、模型から「走りたいよ」の声が聞こえてくる

 石原良純

テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。50代で人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。前向きに生きれば、日々是好転! 買い物がからきし苦手な石原さん。ことの発端は、「ふるさと納税」で見かけた、お礼の鉄道模型…。ストレス解消法に「買い物」が最も理解できない行為だと思っていたが…。

「僕の買い物は、いつもヒット・アンド・アウェー」

 健康に暮らす秘訣は、ストレスを溜めないこと。

 フムフム。では、ストレス解消法は。

 運動する。食べる、飲む。趣味の世界に浸る。などなど、人それぞれ自分なりの解消法がある。そんななかで、僕にはとんと理解できないのが、ストレス解消に買い物に走るという人。

 僕は買い物が、からきし苦手だ。デパートや百貨店へ、自分に必要な物を探しに行っても、二、三ウィンドーを覗いただけで、物酔い、人酔いしてしまう。だから、僕の買い物は、いつもヒット・アンド・アウェー。あらかじめ目的の品を決め、他の店には目もくれず、目的のお店めがけて一直線。もちろん、店で色や形をぐだぐだと悩まない。当初の予定通り、さっと買ってさっと引き上げる。

僕が小学校の登下校途中に眺めた田町電車区の世界を、模型を並べて再現してみた。下から二つ目の編成、クリーム色と青のツートーンカラーが113系車両だ。
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 きっとこれは、幼少期のトラウマに違いない。子供の頃、二、三カ月に一度、母親に連れて行ってもらった横浜駅の高島屋は憧れの場所だった。小さな旗が立ったお子様ランチや、屋上の最中の金魚すくい、そして何より、母と二人きりで出かけるその日ばかりは、他の兄弟から母親を独占できるのだから。それでも、母親が洋服や靴やあれこれ選ぶデパートの大半の時間は苦痛だった。初めのうちこそ、品物選びに参加する素振りはするが、すぐに飽きてしまう。皮靴を履いて帽子を被ったお出かけ姿の僕は、近くの椅子に足をブラブラさせて座っていた。

母の付き合いですっかり買い物が苦手に

 今にして思えば、母親も自分の物ばかり探していたワケではなかろう。また、お伴するのが女の子だったら、一緒に洋服選びの楽しみもあったろう。それが我が家は男ばかりの兄弟四人。どの子を連れて行っても、飽きる子供をあやしながらの慌ただしい買い物に。母も可哀想だが、男の子も可哀想。時間がゆっくりと進むあのドヨ〜ンとした空気を思い、僕はすっかり買い物が苦手になってしまった。

 僕がブランド店へ出かけることは、まずない。毎日、手にしているルイ・ヴィトンのバッグとて、表面が擦り切れ耐用年数が終わった七〜八年に一度、買い替えに店に足を運ぶだけ。着る物に至っては、羽田空港で、マネージャーが車を取りに行く間、到着フロアーのユニクロで調達してしまう。

ことの発端は「ふるさと納税」で貰える鉄道模型にあった

 そんな買い物嫌いなはずの僕が、最近すっかりハマっているのがネットオークション。お目当ては、“Nゲージ”。Nは、線路幅9ミリの英語のナインの頭文字。子供の僕は9ミリゲージと呼んでいた鉄道模型だ。

 ことの発端は、こちらも最近なにかと話題に上がるふるさと納税。インターネットでふるさと納税のお礼の品の頁をめくって眺めていたら、目に入ったのがNゲージだった。肉や米が貰えると聞いてはいたが、模型会社の本拠地、埼玉県鶴ケ島市では、なんとNゲージをお礼の品として進呈している。そこに写真入りで紹介されていたのが僕が逗子から横浜の高島屋へ行くのにも、品川の小学校に遠距離通学するのにも乗っていた横須賀線の車両。今のE-217系ではない、クリーム色と青のツートーンカラーが懐かしい113系車両だ。

 五十を過ぎて鉄道模型ではなかろうが、どうにも小粒のへッドライトの車両が愛しく思える。説明文には現在も活躍する房総地区仕様とあるが、国鉄時代には描かれていなかった横腹の“JR”のロゴ以外は以前と少しも変わりない。

「走りたいよ。走りたいよ」と電車の声が聞こえてくる

 カチッ、カチッとマウスをクリック。鶴ヶ島へ寄付を申し込む。肉よりも米よりも鉄道模型を選んだのは、あくまでも鉄道好きの長男・良将のため。

 四両編成の列車と展示用の短い線路が届いたら、良将に渡す前に、僕の書斎のサイドボードに並べてみる。なにせ、あいつに渡していきなり壊されたらたまらない。鉄道模型は精密機械、デリケートなものなのだ。

 懐かしい列車を眺めれば、「走りたいよ。走りたいよ」と電車の声が聞こえてくる。これは、鉄道ファンの本能というもの。とはいえ今更、線路を買いに模型屋さんの門をくぐるのも。そこで、またまたインターネットで見つけてしまったのが、オークションサイトだった。

商品の配送先は事務所に指定、マネージャ−に荷物を受け取ってもらう。そして、家人の出払った真っ昼間や、皆が寝静まった夜に、僕はこっそりと自分の部屋に模型を運ぶ。気が付けば、こんなにお宝が集まってしまった…。
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 サイトを覗けば、出るわ、出るわ。線路も車両も選り取り見取り。往年の模型ファンが、家で埃を被っていた自慢の品を手放したのだろう。僕は廉価でザクザクとお宝をゲットできる。

酒の勢いでクリック! こんな幸せ、そうそう味わえない

 大方のオークションは、週末の夜に佳境を迎える。「四千円」「四千百円」「四千二百円」ええいと一気に「五千円」をクリックする。お酒の勢いも手伝って見事に落札。五千円で、子供の頃には到底手の届かなかった車両や数多くの線路が手に入る。こんな幸せ、そうそう味わえるものではない。

 でも、落札した商品を家に宅配便で何度も何度も届けられては、妻に怒られる。そこで商品の配送先は事務所に指定、マネージャーに荷物を受け取ってもらう。そして、家人の出払った真っ昼間や、皆が寝静まった夜に、僕はこっそりと自分の部屋に模型を運ぶ。

 期末成績がガタ落ちして、プラモデル禁止令を出した母の目を盗んで、こっそりとプラモデルを部屋に持ち込んだ小学校六年当時とそっくりだ。

 気がつけば線路も車両も、なんとNゲージの増えたことか。車両を並べてみれば、そこに現れるのは僕が小学校の登下校途中に眺めた田町電車区の世界。

 ウム、やっぱり買い物もストレス解消になるのかも。

石原良純(いしはら よしずみ)
俳優・気象予報士
石原良純(いしはら よしずみ)  1962年1月15日生まれ。神奈川県逗子市出身。慶応義塾大学経済学部卒。テレビ、舞台、映画など幅広く活躍。趣味はマラソン。自宅から10キロ先の所属事務所まで走って通うことも。
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