日経グッデイ

石原良純の「日々是好転!ときどきカラダ予報」

ズボンのチャックも閉めずにホテルを飛び出した、「福岡の朝」

第9回 すっきり目覚めることこそ、毎日を楽しく暮らす秘訣

 石原良純

テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。50代で人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。前向きに生きれば、日々是好転! この4月から、福岡でも朝の情報番組のレギュラーを持つことになった石原さん。裕次郎叔父から「遅刻をするな、時間を守れ」との薫陶を受けていたが…。

三つ目でバチッと全回路が作動する

 フト目を開けるとカーテンの隙間の空が、薄っすらと白んでいるのに気がついた。

 「あれ、ここは、どこだっけ。今日は、ナンだっけ」

この4月、九州朝日放送(KBC)が放映する朝の情報番組『アサデス。』に、毎週木曜日のレギュラーが決まった。思い出の地、福岡であわやの“大失態”をしでかすことに…。
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 「ここは、博多」

 「今日は、朝の情報番組」

 一つ、二つと頭の中の回路がゆっくり繋がってゆく。三つ目でバチッと全回路が作動する。

 「やべっ」

 とベッドから飛び起きて、枕元のサイドテーブルのデジタル時計を見ると、「5:35」を表示している。なにしろ、今朝は6時からの生放送。何をどうして、こうするか、脳をフル稼働させる。

 シャワー、うがい。ヒゲ剃りは局に着いてから。プロデューサーへの電話は局に向う途中で。頭が現状をしっかり把握した頃には、ズボンのチャックも閉めずに、僕はホテルの部屋を飛び出していた。

僕は一度もビンタをくらうことはなかった

 「遅刻をするな、時間を守れ」とは、大門軍団の掟。いやいや、石原プロの掟。いやいや、芸能界入りするに当り、裕次郎叔父から受けた薫陶だ。

 その昔、僕がまだ西部警察の刑事だった頃、ロケ現場に到着して、まず辺りを見廻して確認するのは、舘ひろしさんの黒いバン。大門軍団団長の渡哲也さんは、犯人軍団との銃撃戦が佳境に達した時にヘリコプターで到着されるから、朝一番の現場にはいらっしゃらない。気がかりなのは、舘さんのお姿だ。僕にとってロケの集合時間など関係ない。なにより、舘さんよりも先に現場に到着すること。

 西部警察大団円の銃撃戦ロケは、工場や採石場の作業員の皆さんがお休みの日曜にと相場は決まっている。郊外のロケ現場へ向う道すがら、行楽客渋滞に遭遇した時は、遅れるくらいなら、いっそ反対車線に飛び出して正面衝突した方が楽だと真剣に思った。

 体育会的教育法に賛否はあろう。でも、まずもって教育効果はてき面だ。舘さんにブッ飛ばされる先輩を傍目に、僕は一度もビンタをくらうこともなかった。

遅れそうな時こそ、ゆっくり行動する。

 そんな僕が福岡の空の下、よもやの遅刻か。いや、なんとかなる。遅れそうな時こそ、ゆっくり行動する。体も心も思っている以上に急いでいる。そんな時、焦ったところで何一つ良い結果は生まれない。これは、僕が現場を三十余年、渡り歩いて身に付けた知恵だ。

 宿泊するホテルから、九州朝日放送(KBC)の局社までは目と鼻の先。今の僕は大きな通りを横切る時は、ちゃんと歩行者信号が青になるのを待つ。明け方の街を疾走するトラックに跳ね飛ばされては身も蓋もない。

 目覚めてから僅か十分後には、「遅刻」「寝坊」を悟られぬように素知らぬ顔でメイク室入り。生放送はいつもの手順で臨むのが何より。いつもと同じように着替え、いつもと同じようにメイクする。ちょっと時間はタイトだが、本番が始まるまでに平常心を取り戻す。

KBCは石原プロに乗っ取られると怯えていた

 僕がこの四月から木曜日レギュラーを務めているのは、KBCの朝の情報番組『アサデス。』。全国ニュースと地元ネタ満載の福岡の朝の人気番組だ。朝6時から8時まで全国ネットの強豪番組を抑え高視聴率を誇る当番組。なかでも、『ソフトバンク』が勝利した翌朝のスポーツコーナーの数字が群を抜く。番組は地元密着。そんな番組を福岡人は愛してくれている。『ソフトバンク』が負けた日は、試合結果はおかまいなし。『ソフトバンク』選手の投打の活躍シーンをピックアップして、ひとまずホークスファンの溜飲を下げる。

並み居る全国放送の番組を抑え、地元では高視聴率をキープする「アサデス。」。
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 数ある福岡の放送局の中でも、KBCさんとは縁がある。西部警察を放映していたのも同じテレビ朝日系列だった。32年前の「全国縦断ロケ」、の福岡編の折には、すっかりKBCさんにお世話になった。

 当時を知る局員は、今や局長や取締役クラスだ。「あの時は、お世話になりました」と御挨拶すると、「お世話しました」と苦笑い。石原プロ名物、“小政”こと小林政彦専務に圧倒され、このままKBCは石原プロに乗っ取られると怯えていたそうだ。

街はパニック博多どんたくになっていた

 福岡編は、『パニック博多どんたく』『燃えよ玄界灘』の二本。

 『パニック博多どんたく』は、そのタイトルどおり、どんたく会場を舞台にした爆弾テロ騒ぎ。実際のどんたく開催期間中にロケをしたのだから、それこそ街はパニック博多どんたくになっていた。

ドラマ『西部警察 PART-ⅠⅠⅠ』(テレビ朝日系)で五代純刑事役として出演していた、20代の頃の石原良純さん。「今にして見ると当時の僕は、結構頑張っていたようだ」。
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 『燃えよ玄界灘』は、博多湾の海上決戦。犯人一味に拉致された五代純刑事こと僕を乗せた大型船を、百隻もの漁船が取り囲む。一味のボスに僕が撃たれそうになったその瞬間、ヘリから大門団長のショットガンが炸裂する。撃たれる犯人。その一人の手にした手榴弾が船の甲板に転がって、船は大爆発。僕は、すんでのところで荒海に飛び込んだ。

すっきり目覚めることこそ、毎日を楽しく暮らす秘訣

 この冬、その時の映像が北海道小樽の「石原裕次郎記念館」で流れているのを発見した(関連記事: 「“四季”を楽しむ北海道ツアー三泊四日、石原家の場合」)。二十歳の僕は、どんな思いで海に飛び込んだのか記憶はない。でも、今にして見ると当時の僕は、結構頑張っていたようだ。

 思い出の福岡でレギュラー番組。遅刻する訳にはいきません。目覚ましを掛け損なってもギリギリ、セーフ。

 朝、ピカッと目が覚め、シャキッと仕事。気持ちが良い朝の目覚めをむかえるように、五十歳の僕はほどほどの酒を飲み、ほどほどに早く寝る。すっきり目覚めることこそ、毎日を楽しく暮らす秘訣。

石原良純(いしはら よしずみ)
俳優・気象予報士
石原良純(いしはら よしずみ) 1962年1月15日生まれ。神奈川県逗子市出身。慶応義塾大学経済学部卒。テレビ、舞台、映画など幅広く活躍。趣味はマラソン。自宅から10キロ先の所属事務所まで走って通うことも。