再開した老舗旅館も訪問
永平寺町の役場を目指せば、黒龍酒造直営の小売店・石田屋に行き着く。杉玉がブラ下がりそこだけ時間が止まったような、昔ながらの造り酒屋の店構えだ。駐車場には遠くからわざわざ店を訪れる他府県ナンバーの車がいつも並ぶ。

僕が初めて黒龍酒造を訪ねたのは30年前のこと。前回は燗酒用の大吟醸酒「九頭龍 大吟醸燗酒」が完成したばかりだったから15年以上も前になる 。今回も、きっと何か面白いものに出会えるのではと期待して行くと、黒龍酒造の親会社、石田屋二左衛門がこの春新しいことを始めるのだと聞いた。
一つは、街から少し離れた九頭竜川を見降ろす丘に、お酒と一緒に、それに合った福井の美味しい物が食べられる場所ができるらしい。

もう一つは、スパークリング日本酒の発売。2年をかけてゆっくりと瓶内熟成させたふくよかな“awa酒(あわさけ)”。シャンパンの代わりにパーティーのオープニングを飾るのにふさわしいゴージャスな酒になるのだそうだ。
あくまでも「なるのだそうだ 」の話。だってまだ発売前なので飲ませてもらえなかった。女将さん、完成したら送ってくださいね。
そこで女将さんから、新たな福井の情報を頂いた。芦原(あわら)温泉の老舗旅館「ベにや」。べにやといえば、石原裕次郎叔父が愛した宿として知られている。僕も何度かお邪魔したことがあるが、数年前に火事になり全館消失してしまったのだ。そのべにやが昨年の7月に営業を再開したというのだ。
これは何としても、この目で確かめねばならない。荒波砕ける東尋坊はまたの機会に置いておいて、芦原温泉へ向かうことにした。
芦原温泉駅の近く、温泉街の中心にべにやは再建されていた。僕にとってべにやの一番の魅力はなんといってもロビーラウンジから眺める日本庭園だ。火災でも幸いに庭の樹木は焼け残り、往時の面影を色濃く残していた。思えば、僕が日本庭園の魅力を初めて感じたのはこの庭かもしれない。ラウンジに吹き抜けるそよ風を感じながら、ビールでも飲めば一日中そこにいられた。
あれっ、やっぱり庭よりビールに魅かれたのか。いや~っ福井、楽しかった。

俳優・気象予報士
