テレビ界きっての多趣味人で、博識の石原良純さん。50代で人生により磨きをかける日々の中で感じている、カラダのこと、天気のこと、そしてニッポンのこと。何事も前向きに生きれば、日々是好転! 今回は、ミュージカル『CATS(キャッツ)』の鑑賞を機に思い起こした歌やダンスにまつわるエピソードや、猫のようなしなやかさを身に付けたいとこの春に習い始めたヨガについて、語ってくれました。
先日、東京・大井町のキャッツ・シアターに、ミュージカル『CATS(キャッツ)』を鑑賞に出かけた。
ロングランを続ける不朽の名作も、6月20日に千秋楽を迎える。緊急事態宣言が刻一刻と迫る気配の東京で、今、見逃したらもう見られないかも。焦る娘に手を引かれて、僕も劇場に足を運ぶことになった。
1年間に100本、芝居を観てやると足繁く劇場通いをしたのは、もう30年も前のこと。その当時でさえ全くミュージカルを観た記憶はない。
少年時代、日比谷の日生劇場で作・石原慎太郎『若きハイデルベルヒ』という芝居を観た。主演、中村勘九郎(五代目)、大竹しのぶ。二人は当時、まだ10代だったのだろうか。音楽劇と紹介されていたから、それが僕とミュージカルの唯一の接点だった。
歌やダンスの思い出といえば…
そんな僕は、いつしか舞台で演じる側となり、つかこうへい作・演出の舞台『熱海殺人事件』で主人公、木村伝兵衛として紀伊國屋ホールやパルコ劇場の舞台に立った。

膨大なセリフを大音量でやり取りする物語は、観客が息をつく暇もなく目まぐるしく展開していく。舞台上の登場人物と観客の気持ちが一つになった頃合いで照明が変わり、突然マイクを持って僕は歌い出す。
どんなに面白い芝居を創っても、観客の集中力は40分で途切れる。疲れ果てる前に、観客の気持ちを一旦、解放してあげる。エンターテインメントを知り尽くしたつか氏ならではの演出だ。
♪メロディ~ 泣きながら~っ♪♪
玉置浩二さんの『メロディー』を熱唱する舞台上の僕を、観客は呆然(ぼうぜん)と見上げている。そこで木村伝兵衛の彼女である水野婦人警官がひと言。
「いつまでたっても、歌、上手くならないわね」
ちゃんと客の気持ちを代弁するセリフを用意することも、つかさんは怠りなかった。
終演後のカーテンコールは、まるでインド映画のように出演者全員でダンスを踊る。それまで、音に合わせて体を動かしたことのなかった僕にとっては、芝居の稽古と同じぐらい、ダンス・レッスンはハードなものとなった。

週に1回のダンス・レッスン。前半の1時間は、ただひたすらストレッチ。しなやかな体が激しく動いてこそ華麗なる踊りは完成する。これも、僕が大の苦手とするところ。他の劇団員は、両手両足を真横に伸ばしてピタッと床に体で「土」の字を描く。僕は独りだけ、紙相撲の力士のように両手両足を直角に開いて、それでも頭を少しでも床に近づけようと呻(うめ)いていた。
後半の1時間が踊りのレッスン。アン・ドゥ・トヮッとクラシックバレエの基本動作から始まった。お腹を引っ込めて、体を薄くして立つ。「プリエ」で両膝を曲げる。「グランプリエ」は大きく曲げる。「ドゥミプリエ」は小さく曲げる。第2外国語にフランス語を選択していたことが、生まれて初めて役に立った。
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