なにしろ、つかさんの舞台では、演者は莫大な量の台詞を矢継ぎ早に大声で客席に投げつける。その溢れるエネルギーこそが、つか芝居の魅力でもある。当然、つかさんが稽古場で口立てで生み出した台詞の迫力に負けない体力が演者に要求される。カゼ気味の体調不良では、とうてい、つか作品の舞台は務まらないのだ。
タラーッと流れ出た鼻水をティッシュで拭う。すると、まだ鼻水が流れ出る気配。僕はズズズと鼻をすする。ところが、吸い込んだ空気と伴に鼻孔の奥深く戻るであろうはずの鼻水が、流れ出る。「あれっ」、と思う間もなくタラリと流れ出た鼻水は、滴となって膝上のナプキンにポトリと落ちた。
これって、もしかして、話題の花粉症ってこと。初体験に、僕は目を白黒。それが正しく僕の花粉症が発症した瞬間だった。
二〇〇三年は、花粉症飛散量が過去最高といわれた年。花粉を吸い込み、長年の蓄積で自分のバケツがいっぱいになった人が花粉症を発症する―。そんな専門家の説明も、花粉症発症以前の人間には全く興味は湧かない。花粉症になっても死ぬ訳ではあるまいし、いざとなったら薬を飲めばいい。だから、マスクなしでゴルフもすればジョギングもする。だって、一年で一番、頬に当る風が心地良い季節なのだから。
御座なりに原稿を読んでいた僕に、天罰が下ったのか
この季節、天気予報の最後には必ず花粉飛散情報が流れている。
「それでは最後に、花粉情報です。北関東では…」と、僕もモニター画像の赤やオレンジのマークを指差しながら解説する。
でも、こんな情報を誰が気にするのだろう、と当時の僕は御座なりに原稿を読んでいたかもしれない。そんな僕の態度に天罰が下ったのか。それとも、遺伝なのか、食生活が悪かったのか。二〇〇三年三月十二日の夜、僕は花粉症患者に仲間入りした。
花粉症対策には、まずマスクとゴーグル。マラソンシーズンたけなわの今、街中を無防備にジョギングしていると、「あっ痛」と花粉が目や鼻の奥の粘膜にぶつかった瞬間が分かるものだ。だからといってマスクとゴーグルをして走れば、マスクの上部から上がってくる息でゴーグルが曇ってしまう。それでも僕は、白く霞のかかった桜の下をしょうこりもなく走り続けている。
花粉症には体質改善。食生活を改めろ。蜂蜜を舐めろ、ヨーグルトを食べろ。などなど、様々な秘訣を耳にする。でも、何カ月も前から準備するのは僕の性に合わない。
ならば、毒をもって毒を制す。花粉をブスリと注射で体内に取り込むか。そんな恐ろしいことできるわけない。ステロイドなら効きそうだけど、でも副作用も心配だ。
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- こんなことならば春風も花見も惜しくない